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いろいろ置き場

なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。

2025.06.25
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2007.01.22

山ヒバ、としか言いようがなかった。

特にコメントもない。


応接室は基本的にいつも静かだ。それは大抵ヒバリ以外誰もおらず、校舎の外れ
の方にあるため喧騒もここまで響きづらいためだった。
暇さえあれば無断で応接室に入り浸る俺に、最初は追い出そうとしていたヒバリ
ももう諦めたらしい。粘り強さは俺に軍配が上がったようだ。
それからヒバリとの距離を少しずつ少しずつ縮めた。根気と忍耐、それも俺は自
信がある。
そうしてじっくり時間をかけて、二人の距離はついにはヒバリに触れられるくら
いになった。
振り返れば長かったようにも思うけど、別に苦ではなかったと思う。痛い思いは
たくさんしてきたが。
髪に触って、指先を滑らせてもヒバリは何も言わなかった。
俺の方なんて見向きもせず、なんだかよくわからない書類を眺めてる。
一介の中学の風紀委員がこんなもん眺める必要あんのかなとか思うこともあるけ
ど、ヒバリが真剣な顔で見つめてるから俺は何も言わないでおく。
排除しようとすることもなくなったが構ってやろうともしてくれない。
どうやらヒバリは俺をいてもいないものと思うようにしたようだ。あっても気に
しない、空気みたいだとでも思ってんのかな、と俺はヒバリを見つめながらぼん
やり思った。
あ、それっていいかも。
だって俺が側にいるのが当たり前みたいに思ってるってことだろ。
「…何、笑ってるの」
ヒバリの声にヒバリを見つめ直せば、ヒバリは無表情のまま視線だけ俺に向けて
いた。
「気持ち悪い」
「ひっでぇなその言い方」
「本当のことだよ」
「ハハッ」
ついっと視線が逸らされる。それからパタンと書類が閉じられて無造作に俺が腰
掛けてる机に置かれた。
「帰んの?」
「帰るよ」
「じゃあ俺も帰ろ」
椅子から腰を上げたヒバリの後を付いてけば、ヒバリはちらりと俺を見たけど特
に何もいわずさっさと進んでしまう。やっぱり殴ろうとしない。
廊下を歩く間も、階段を下りて行く時も、俺たちの間に会話はない。学年ごとに
昇降口が違うから一旦別れることになる。
「またな~」
俺はヒバリに手を振ってみたけど当然のごとくシカトされた。まぁいいけどよ。
俺は自分の下駄箱から靴を取り出し無造作に投げ下ろした。乾いた音が静かな昇
降口に響く。
しっかり靴はいて校門までの道を見ればヒバリは少し前を歩いていた。俺は小走
りでそれに追いつき、ちょっと後ろを歩く。
足音にヒバリは俺を一瞬振り返ったから俺は笑いかけてみたけどすぐに顔を逸ら
される。…別にいいけどよ。


そんなことを繰り返していたある日、珍しくヒバリから俺に話しかけてきた。


「何がしたいのかな。君は」
唐突な質問に、俺は『ヒバリの空気になりたい』と答えてみた。
そしたら鼻で笑われた。
「君、馬鹿?」
「馬鹿って言うなよー。こっちは至って大まじめなんだぜ」
「馬鹿だよ」
そう言ったきりまたふいと顔を逸らしてしまったヒバリに俺はちょっと食い下が
って訴えてみる。
空気ってのはあるのが当たり前であっても意識しないけど、ないと苦しいものな
んだと。
つまり俺はヒバリにとって側に居るのが当たり前で、いなくなると寂しくなるよ
うな存在になりたいんだ。
俺がそう言い終わった時、ヒバリは俺の方を見て、
「随分と、君に都合のいい存在だね」
と言った。そうは言ったけど、『無理だよ』とも『ダメ』とも言わなかった。
それはつまり、なってもいいってことか?
そう思ったら、なんだか嬉しくてにやけてたら『気持ち悪い』と言われた。
言われても笑いが頬は緩みっ放しで、やばい俺今キモイって思っても止まんなか
った。
ひとしきり笑って、応接室の天井を仰いだ。
いつの日かきっと、なってやるさ。
そう心の中で呟いた。
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