いろいろ置き場
なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。
ひとまず終わり?
暗くこの世の終わりを迎えたような気分のまま、K'は家に帰りました。
「ただい……、!!!」
扉を開けて、尋常ならざる空気を感じとります。何せ血の匂いが漂っているので
す。匂いだけじゃありません。K'の視界、リビングからボタボタと大量の血の跡
が付いていますし、閉じられたトイレの壁には血で濡れた手で触ったのかべった
りと変色した手形が付いていました。
「っ!」
K'は靴を脱ぎ散らかすともうダッシュでロックのかかったトイレの扉を壊さぬよ
うに叩きました。
「母さん!!大丈夫か!母さん…!!」
レオナが部屋の隅でその様子を心配そうに伺っています。傍目から見たら無表情
ですが。血が嫌いなのに、母親が心配で部屋から出て来たのです。ですが血が共
鳴しあったら大変なので庵が落ち着くまでレオナは庵に近寄れません。
「…大丈、夫…だ…。…ごふっ」
「母さん!!」
天戸の扉ように閉ざされた薄いトイレの戸の向こうから聞こえた弱々しい庵の声
と尚も続く血を吐く気配にK'が戸を叩き破ろうとしたまさにその時、先に玄関の
戸が蹴破られました。
「八神ィィイ!!!!大丈夫かァァア!!!!」
「ぶっ…!」
必死の形相で飛び込んで来た京は勢いのままトイレの戸に張り付いていたK'をも
蹴り倒し、木製の扉を一撃で破壊しトイレに踏み込みました。
トイレに赤い血溜まりを作り上げ青い顔をしている愛妻の肩を揺さぶります。な
んて仕打ち。
「八神ィ!しっかりしろ八神ィ!!俺を置いて逝くなァァア!」
「くっ…ならば貴様が先に逝けェ!!」
「ぐはっ」
がら空きの顎に強烈なアッパー(炎のオプション付き)を叩き込まれ、京の体は宙
を舞いました。
廊下に倒れていたK'に手を差し延べていたレオナは、その美しい曲線を無感動に
見つめています。
「ちょっ…、てめっ!ラブコールの途中突然血ィ吐いただろう妻を心配して補習
をバックれ交通法を振りかざすマッポからも逃げ切って帰ってきた夫になんてこ
とすんだ!DV?!DVなのか?!!俺が何をしたってんだ!」
「ふざけるな。補習をバックれただと?また卒業出来なかったらどうするつもり
だ。貴様の学費がどれだけ我が家の家計を圧迫しているのか貴様は分かっている
のか。おまけに卒業記念品のための代金の積立だと?死ね。貴様なんて死んでし
まえ。地獄の業火に焼かれながらもがき苦しみそして死ね!」
「八神!言葉の暴力の威力を思い知れ!!世の中には言っていいことと悪いこと
があるんだ!おまえは今最大級の力で俺を殴った!!」
「俺は事実を行ったまでだ。ろくに稼ぎもないくせに支出ばかり増やして…。今
月から二万五千円さらに引き落としだと…?ふざけるにもほどが…がはァっ」
「あぁっ!八神…!」
「退け」
「ぶはっ」
負担増の家計のことを考えると京への殺意がまた込み上げてしまったのでしょう
。京を殺したいと思うと庵の持病が発作を起こしてしまうのです。また盛大に血
を吐いた庵に京が庵の肩を掴んだ時、回復したK'が京の側頭部を蹴り飛ばしまし
た。
「母さん大丈夫か」
「あぁ…」
「顔色悪ィし、しばらく休んでろよ。なんも心配いらねぇから」
「…すまん」
息子に促されるまま庵は転々と血を垂らし壁を汚しながら寝室に向かい姿を消し
ました。その際ちゃんと倒れている京をぷちっと踏んで行くのも忘れません。
バタンと庵が寝室に入って、K'は溜め息をつきかぶりを振りました。
「不憫だな…。こんなダブり高校生なんかを夫に持つから…」
「K'、てめぇ父親を足蹴にしおまけに愚弄してタダで済むと思うなよ…」
「何が父親だ。偉そうなこと言う前にちゃんと卒業したらどうだ。あぁ?」
「あんだと。もっぺん言って見ろ」
「何度でも言ってやるよ。この落第生が」
バチバチと火花を散らし右手に炎を携える男陣の傍らで、レオナは一人バケツと
雑巾を持ち出し床に残る血痕をどうにかしてもらおうと二人を見つめます。
視線に気付いたK'はレオナの前にしゃがみ込み、バケツと雑巾を受け取りました
。
「そういやおまえは血が嫌いなんだったな。綺麗にしとくから、部屋でおとなし
くしてろ」
「…了解」
「俺が側にいてやろうか?」
「てめぇは壊した扉を直してろ」
大嫌いな血を見て心細いだろうレオナに父親っぽいことをしてやりたかった京で
すが、K'に一刀両断却下されました。
そうして二人黙々と自分の作業を始めます。もう手慣れたものです。
京が玄関の戸をはめ直し、K'が壁に残る手形を拭き取っている間、レオナは部屋
を抜けだし庵の寝室に入り込みました。
薄暗いその部屋の真ん中にある、人の形に膨らんだ布団に近寄ります。
レオナの気配を感じ、庵が目を開けました。レオナは黙って庵を見つめています
。
「…どうした」
「………あげるわ」
握り締められた小さな両手を突き付けられ、庵は布団から手を出します。大きな
手にころりと飴が3つ転がされました。
「……これがK'でこれが私、そしてこれが父さん」
レオナ曰く、男の子だから深い紫の包装に包まれたブドウの飴がK'、対してレオ
ナは女の子なので真っ赤な林檎がかかれた飴、最後、学ランのイメージが強いの
か京は黒飴だそうです。
「…これで、一人でも心細くないわね」
『側にいてやろうか?』
という京の発言を受けて、もしかしたら母さん一人で心細いかもとレオナは思っ
たのです。
「………」
手のひらの飴を見つめていた庵はその手を握り締めると、空いているもう片手で
レオナの頭を撫でました。
「ありがとう」
「………どういたしまして」
レオナはか細い声でそういうと部屋から出ていってしまいました。照れてるので
す。
庵は手のひらの飴をサイドテーブルに乗せると、とりあえず黒飴だけパキッと割
ってからすよすよ眠りにつきました。
ぞくりと悪寒を感じた黒飴京は辺りを見回しますが何もありません。
「あ?どうした?」
「いや、なんか悪寒が…。体調悪ィのかな。俺もちょっくら寝てくるわ」
「させるか」
庵の寝る寝室にエスケープを図った京でしたがK'に襟首を掴まれ敢え無く阻止さ
れます。
「扉直したんなら夕飯作れよ」
「あぁ?なんで俺が」
「母さん寝てるし俺はまだ掃除してんだ。てめぇしかいねぇだろうが」
「………」
ちらりと廊下に目をやればまだ床には血溜まりが残っています。白い壁に後が残
らないよう丁寧に拭いていたためまだ全く床の掃除が終わっていないのです。
仕方なく、京は台所に向かいました。
「出来たぞー。オムライスだ」
庵のいない食卓を3人で囲みます。テーブルには言葉通りのオムライス。それぞ
れに各々の名前が書いてあります。そして申し訳程度にサラダが添えてありまし
た。見た目は悪くありません。
「「「いただきます」」」
3人揃って食べ始めて、オムライスにスプーンを入れたところでK'は気付きまし
た。
チキンライスが、白い。
「オイ」
「あん?なんだよ」
「なんで中身が白いんだよ。有り得ねぇだろうが」
「あぁ?いいじゃねーか別によォ。上にケチャップ掛けてあんだから、一緒に食
えばケチャップ味だろうが。な、レオナ。ケチャップの味するよな」
「………えぇ」
「ほれ見ろよ」
「そういう問題じゃねぇ!こんなもんオムライスとは言わねぇ!!」
「オムライスだっつーの。どっからどう見てもオムライスだったろうが」
「オムライスは中身がケチャップ色のチキンライスであって始めてオムライスだ
ろうが!レオナ!“うちのオムライスは中身が白いの”なんて友達に言うなよ!
恥ずかしいからな!!」
「…了解」
「んだよ細けぇな。じゃあオムチャーハン」
「もっと言えるか!!」
ケチャップの節約になるのに、とぶちぶち文句を言う京を横目にK'は苛立ちなが
らもオムライス改めオムチャーハンを口にしました。
ムカつくことに、それは確かにオムライスの味がしました。
「………」
難しい顔をしながら黙々とスプーンを運ぶK'を京はニヤニヤしながら見やります
。
「オムライスだろ?」
「………」
黙秘権を行使してK'は職を進めます。
さらに腹立つことに、そのオムライス改めオムチャーハンはなかなかおいしかっ
たのでした。
「くっ…!」
K'の苦悩は続きます。