いろいろ置き場
なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。
...2006/03/13(Mon) No.294
雨が降っていた。雨音以外の音はなくて、ただ二人寄り添って、ひとつの毛布にくるまって、やまない雨を見つめていた。
「なー柿ピー」
不意に犬が千種を見ずに口を開いた。
「なに?」
千種も犬を見ずに返事をする。
「骸さん、今頃何してるんのかな」
「俺には分かんないよ」
「そっか」
「うん」
そこで会話は途切れてまた雨音が二人を包む。二人はただ太陽の光を遮る厚い灰色の雲から落ちてくる滴をずっと見つめていた。見つめながら考えていた。単身マフィアに潜り込んでいった骸のことを。
『大丈夫ですよ』
骸は心配する二人にそう笑顔で告げて、二人を此処に残し行ってしまった。一度此処に戻ってきて毛布やら何やらを両手一杯に抱えてリュックに詰め込めるだけ詰め込んで持ってきたきり音信不通。彼は今何をしているのだろう。
『なるべく早くカタをつけて迎えにきますね』
笑って背を向けた彼は今何を思っているのだろう。二人はずっと骸のことを考えているのだけれど。
マフィアと関わりをもつなんて自分達には到底出来ない。嫌だ。マフィアの中で生活するなんて。身体の奥底まで深く深く刻まれた苦痛に満ちた記憶がマフィアを拒絶する。
『僕一人で行きますから、二人は待っていてくださいね』
そう言ってたった一人で行ってしまった骸を思い二人はただただ祈ることしか出来ない。骸が無事に帰ってきますようにと。
しかし神様の存在を二人は信じていないので―――もし仮に神様がいるのなら何故僕らを救い出してくれないのか。痛みの中あんなにも必死で祈っていたのに―――願いは行き先のあてもなく空ろに彷徨うばかりだ。
それでも。
「なー柿ピー」
また犬が口を開いた。やはり視線は雨空だ。
「なに?」
千種の態度も変わらない。何かを意識的に見ているつもりもないが、視線はじっと一点に据えられて揺るがない。
「骸さん早く来てくれるといーね」
「そうだね」
願いを口にしたくて、言葉にしたくて、言葉を紡いで、そしてひたすら願う。
「なんかする?」
「やだよめんどい」
「雨見てても暇だびょん」
「じゃあ一人で遊びなよ。俺はいやだ」
「ケーチ」
「ケチでいいし。骸さんが持って来てくれた本でも読んでなよ」
「柿ピーも読もうよ」
「…犬が持って来てくれるならいいよ」
「じゃあ持ってくるびょん」
そう言って犬が立ち上がろうとした瞬間に、二人の間に流れ込んだ冷たい空気が互いの温もりを感じていた肌を撫でる。
「ん」
服が引っ張られて、犬は振り返った。千種の手がしっかりと犬の服を掴んでいる。
「なにぃ?」
「やっぱり本読まない。おとなしくしてよう」
「?。変な柿ピー」
自分で本を読んだらと言い出したくせに。唇を尖らせて言ってみても千種はそれ以上何も言わなかった。
犬もまた座り直す。ぴったりと肌がくっついて温もりを感じ直す。
犬が黙って千種の肩に頭を寄せたので、千種も何も言わず頬を犬の頭に寄せる。
そのまま二人でまたじっと変わらない空を見つめた。
雨はまだやみそうにない。