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いろいろ置き場

なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。

2025.06.26
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2010.03.30
自分以外誰もいない部屋に咳が響く。否定のしようもなく、風邪を引いた。
怠い、頭が痛い、喉も痛い、身体の節々も痛い。
思えば昨日の晩から既に体調不良の兆しは見えていた。
(最悪…)
独りごちて臨也は布団に包まった。今日は大人しく寝ていよう。こんな状態で何もすることはない。そう思っていたのに。
静かに、本当に静かに、部屋の扉が開いたのが分かった。そして忍び寄ってくる二つの気配。本人達は息を潜めているつもりでも、バレバレすぎて突っ込む気にもならない。
無視だ無視。
寝返りを打ち、気配に背を向けた。そう思っている間にそれらはベッドのすぐ脇に来ていた。
「イザ兄、大丈夫?」
「…病(風邪)…寝(安静にしてなきゃ)」
身を乗り出して覗き込んでくる。わざわざ寝ている臨也の身体を潰してだ。
二人分の重さに臨也は無視しきれず、閉じていた目を開けた。
「大丈夫じゃないよ。俺今思いっきり風邪引いてんの。だからほら、出てけ。移ったら困るだろ」
しっしと指先で追い払い、扉を指差しても妹達はベッドの臨也を見下ろしてその場から動かない。
その場でどうしようかと話し合い始め、部屋の外でやれ外でと臨也は苛立ちを募らせた。
そのうちマイルがぱっと顔を輝かせて手を打った。
「そうだ! イザ兄、今日朝から何も食べてないでしょ。私達がなにか作ってあげるね!」
「…飯(ご飯)…食(食べないと)…治(薬飲めない)」
「いい、寝てれば治るから。っていうか大人がいないときに火を使うなって言われてるだろ」
兄のためにと一生懸命考えた案を即切り捨てられ、双子はしゅんとうなだれた。その様子にも臨也の心が痛むことはない。何故ならそんなのはほんの一瞬のことで、すぐにマイルは顔を上げると、これ以上ないくらいの笑顔で言った。
「ならイザ兄が隣で見ててくれればいいんだよ!」



臨也はすっきりとしない頭で目の前の光景を眺めていた。
妹が自分のために一生懸命おじやを作ってくれている。
それがどうしてこんなにも嬉しくないかと言えば、寝ていたところをわざわざ叩き起こされからに他ならない。先程から絶え間無く寒気がしている。熱が上がるのだろう。生地の厚い半纏を着込んでいるのに震えが止まらない。
立っているのも辛くてシンクに寄り掛かっている状態だというのに、妹達はそれに気付かず次の手順はどうしたらいいのかと無垢な顔をして聞いてくる。
作れないのなら作ってあげるなんて言うな。そう思いながらも指示を出してやる。慣れない手つきで材料を切ったり煮たりする妹達に、見ててハラハラする。
見た目の悪いおじやが出来上がる頃にはもう体調は悪化の一途を辿っていた。
正直何も食べたくない。気持ち悪い。動きたくもないし、ただ寝ていたいとしか思えない。
しかし妹達が期待に輝かせた目を向けてくるので仕方なくスプーンを手に取った。一口、口に含む。
(…舌が麻痺してる。味わかんねぇや。あー喉痛い)
「イザ兄、美味しい?」
「………まぁまぁ」
「えー」
不満げに眉を寄せたマイルに対し、クルリはなにかに気づいたようでマイルの袖を引いた。
「なぁにクル姉」
「…宅(家に薬)…無(ない)…」
「えぇっ!ダメじゃんそれ!買ってこなきゃ」
4つの瞳が臨也に向けられる。それを受けて臨也は熱い溜め息をつくと青白い顔を自分の上着に向けた。そのポケットに入っている財布を取りに行かせ、中から紙幣を3枚程取り出してクルリに渡す。
「風邪薬と、冷えピタとポカリでも買ってきて。おやつは120円まで、各自1つずつだからな」
「…了(はい)…」
「まっかせてー!行こうクル姉!」
キャッキャとはしゃぎながら二人が家から出て行く。それを見送って臨也は考えていた。
(あれは俺が心配なんじゃなくて、看病ごっこして遊んでんだな)
絡まれたこちらとしては迷惑以外の何物でもない。再び溜め息をつくと持て余しているおじやに視線を注いだ。



ふと目を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい。リビングの机で伏せっていたようだ。おじやの器を見れば空になっているので、どうやら完食と同時に気を失ったようだ。
家のなかはしんと静まり返っていて、妹達はまだ帰っていないことを示していた。
時計は彼女達が出て行ってから2時間半が経とうとしていることを臨也に教えてくれた。
(なにしてんだあいつら…。ドラッグストアなんて歩いて10分もかかんないだろ。お使いも満足に出来ないのか…)
今日何度目か分からない溜め息がこぼれ落ちる。
身体が重たい。寝ていよう。
そう思うのに臨也の腕は上着を掴んでいた。
寝てもどうせ帰ってきた妹達に薬だと起こされるに決まっている。ならこちらから迎えに行って薬を受け取ってさっさと寝てしまった方がいい。
そう考えてのことだったのだが、家を出て数分で臨也は自分の行動を後悔した。
(気持ち悪い…)
眩暈が酷い。地面が揺れて、臨也は壁に手をついて立ち止まった。吐いたら楽になるだろうかとも考えたが、一般公道でそんな真似は出来ない。
(クソッ、どうしてこんなことに)
一刻も早く妹達を見つけて帰ろう。そう心に決めて臨也はなめくじのように壁を這って歩を進めた。
「あ、イザ兄だ。イザ兄ー」
「…疑(何してるの?)…」
遠く、臨也の胸中とは掛け離れた明るい声が響いて臨也は顔を上げた。
「うわイザ兄、酷い顔だよ。早く家帰って寝なきゃ!」
「…誰のせいだと…」
「え、何? なんか言った?」
「………」
もういいや。言い返すのも面倒だ。妹達に遠慮もなく手を引かれてバランスを崩しかけたところで襟を誰かに捕まれる。
嫌な予感しかしなかった。臨也はゆっくりと振り返り、その手の主を見上げた。
「…やぁ、シズちゃん…」
「おぅ」
感情の読めない瞳で見下ろしてくる静雄に臨也はただ引き攣った笑みを浮かべることしか出来なかった。何故此処に、などもはやどうでもいいことだ。
今日が自分の命日か。もう少し長生きしたかったと心の隅で思う。
「静雄さんがねぇ、薬一緒に選んでくれたんだよ。イザ兄、風邪薬としか言わないんだもん。いっぱい有りすぎてわかんなかったよ!」
「…へぇ…」
だから何。今おまえらの兄貴は絶体絶命、最大のピンチを迎えているんだと言ってやりたいけれど喋るのも億劫だった。俺、終わった。
そう思った瞬間に身体が浮いた。固く目をつむったが衝撃は来ない。
足はぶらぶらと浮いているのに上体がなにかに触れていて、何事かと目を開けば真っ先に痛んだ金髪が目に入った。
「…何してんの」
「自分がどうなってんのかわかんねぇようじゃ手前も終わってんな。こいつらじゃ手前連れて帰れねぇだろうが」
背負われているせいで臨也から静雄の表情を伺うことは出来ない。静雄が一歩踏み出すたびに臨也の足が頼りなく揺れた。
「医者にもかかってねーんだろ。後で新羅呼んでやる」
「………」
「静雄さん優しー!」
「…謝(ありがとう)…御(ございます)…」
周りを駆け回るマイルと、横を歩くクルリを横目に見ながら臨也は今日最後の溜め息を吐いた。
「…シズちゃん」
「あぁ?」
「あいつらも世話になったし、貸し二つでいいよ」
「くだらねぇこと言ってないで、さっさと治せ」
「おやおや、いいのかな。俺に恩売っとけばいいことあるのに」
「阿呆くせぇ」
「ハハッ」
もう駄目だ。瞼が重い。臨也は口よりも先に目を閉じた。



(次に目覚めたとき、まだシズちゃんが家にいて俺が驚愕するのはまた別の話)
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