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いろいろ置き場

なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。

2025.06.26
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2009.07.21
『真ちゃんは被害者だから、ちっとそれっぽくしないとな』
そう言って腕を拘束した手は優しかった。
なにもかもが優しい行為はそれでも苦痛以外のなにものでもなくて、渦巻いた感情に涙腺は決壊して生温い雨を惜し気もなく降らせてくれた。けれどいつの間にか全てが終わって独り勝手に設定されたアラーム音に目を覚ましたとき、視界から消えたその人の名前を無意識に呟いて探してしまったのは純然たる事実以外のなにものでもなかった。



あの日以降も、あいつは、高尾は変わらずに人に話し掛けて、笑いかけてきたけれど、距離を取るようになった。
見えない線を引いてその内側に入ろうとしない。以前なら躊躇いもなく踏み越えてきたというのに。
そして触れてこない。性的な意図を持たない、ただ肩を叩くだとかそういったこともしてこなくなった。
さらには部室とか教室とか便所とか、そういったところで二人きりになりかけるとするりと消えていく。
それでも上辺は何も変わらないので俺達のそう言った変化に気づいているものは少ないようだ。
今日も部室で他の部員達が次々に帰宅の途につき人口密度が下がるのを察した高尾はごく自然な動作で荷物を抱えて部屋を出ていこうとした。
それを「高尾」の一言で引き止めた。高尾は何か帰る理由を並べたけれど、もう一度名前を呼べば大人しく上げた腰をベンチに下ろした。
今日は俺が鍵の当番で最後まで残らなくてはならない。あの日は高尾が当番で、俺は付き合わされて残っていた。
俺と高尾以外の最後の部員が部屋を出て、あの日ぶりに俺達は二人きりになった。
沈黙が重たい。
「言わねぇんだ。あのこと」
不意にぽつりと高尾が呟いた。
「…誰に言えと言うのだ。あんなこと」
「誰って、親とか教師とか、…警察とか? あれって多分犯罪よ? ゴーカンだよゴーカン」
「だろうな」
「俺が言うのもあれだけど、泣き寝入りは良くないぜ? 極悪非道な部員に命並に大切な左手を人質に取られて、抵抗なんて出来ませんでしたって言えばいいんだって。まだ腕の痣も消えてないみたいだし。俺まだ緑間拘束したテーピングもまだ捨ててねーし、物的証拠も十分じゃん」
リストバンドで隠れた手首に高尾の視線が向けられる。その下には部活後だったために外していたテーピングで付けられた痣がまだ残っている。
「………」
「何度も言ったけど、被害者なんだよ。し、」
俺の名を呼ぼうとした唇を唇で塞ぐ。驚いたように丸くなった目に俺が映りこんだ。
「誰が被害者だって?」
吐息が交わる距離で、瞳のなかの俺が笑う。



「被害者なんて、何処にもいやしないのだよ」



『被害者意識って好きじゃない。上目遣いで誘って共犯がいい』
(宇多田ヒカル/Kiss & Cry)



**************
もう続かないです、、
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