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いろいろ置き場

なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。

2025.06.26
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2009.05.12
バサラですよ。



其処は生温くも心地よく、まるで母の胎のようだった。
茫洋と果てもなく広がる空間には何もない。己の輪郭さえも失っているような感覚にも不思議と不安はなかった。
不意に響いた泣いている子供の声に政宗は辺りを見回した。
それはすぐに見つかった。
メソメソと泣いている子供はうずくまり顔を伏せている。
声をかけよう、手を伸ばそうとして、背後からもう一つの声がした。
柔らかく温かい、女の声だった。
「どうしましたか、私のやや子」
弾かれたように子供が顔をあげた。あげたと政宗は思った。思ったのに、気が付けば子供の姿は消え失せて、その人は政宗に微笑んでいた。
「可哀相に。もう泣くのはおよしなさい。母が抱いてあげましょう」
優しい手が伸びて政宗の小さな身体を抱きしめた。
政宗を包む香りと温もりに甘えるように政宗もその背に腕を回す。拒絶されることはなくさらに抱きしめられた。柔らかい胸に頬を押し付ける。
幸せだと思った。
「怖いものなど、貴方は見なくていいのです。目をつむり、このまま母の胸でお眠りなさい。可愛い私のやや子、私の可愛い――」



目が覚めた。目に飛び込む見慣れた景色に張り詰めていた息を吐いた。
身体を起こした。温かな雨が頬を伝い布団に落ちる。夢のなかでは確かに泣き止んだはずなのに。
「政宗様」
襖越し、かけられた声に涙を拭う。
「起きてる」
そう返して布団から出た。涙はもう止まっていた。



(今更悲しくなどない。恋しくなどない)
(どんなに願っても、今はもう手に入らないもの)
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