いろいろ置き場
なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。
2010.05.07
退屈だった死神臨也が落とした1冊のDEATH NOTE、目の前に落ちてきたそれを拾った心穏やかな怪力青年平和島静雄の物語。
のはずが、シズちゃんが全くノートを使わないので臨也がどうにかこうにかシズちゃんにノートを使わせようとする物語に。
「ほら、これを使えば新世界の神にもなれるんだよ。すごくない?」
「興味ねぇ」
「もぉぉお!使ってよぉぉお!」
「よし決めた。手前の名前を書く」
「残念でしたー。俺は死神だから書かれても死にませんー」
「よし殺す今殺す手前は俺の手で殺す」
「ちょっ、ノート意味ない…!」
「シズちゃん、死神の目欲しくな、」
「いらねぇ」
「早いよ!」
「林檎ー。林檎食べたい。もしくは大トロ、むしろ大トロ。寿司ラブ! 俺は大トロが好き」
「手前にやる大トロはねぇ」
「金がないだけでしょ」
「林檎もやらねぇ」
「あぁん! シズちゃんのイケず!!」
番外・臨也とドタチン
「ドタチンドタチン、林檎、林檎食べたい林檎。もしくは大トロ」
「ほら、林檎」
「わーい。今俺の大トロ無視したね」
番外・臨也と新羅
「死神? うちにはもうセルティっていう天使がいるから君には用がないなぁ」
「わぁウザイなー。ノートに名前書いてやろうか」
番外・臨也と帝人様
「新世界の神、ですか…」
「………」
のはずが、シズちゃんが全くノートを使わないので臨也がどうにかこうにかシズちゃんにノートを使わせようとする物語に。
「ほら、これを使えば新世界の神にもなれるんだよ。すごくない?」
「興味ねぇ」
「もぉぉお!使ってよぉぉお!」
「よし決めた。手前の名前を書く」
「残念でしたー。俺は死神だから書かれても死にませんー」
「よし殺す今殺す手前は俺の手で殺す」
「ちょっ、ノート意味ない…!」
「シズちゃん、死神の目欲しくな、」
「いらねぇ」
「早いよ!」
「林檎ー。林檎食べたい。もしくは大トロ、むしろ大トロ。寿司ラブ! 俺は大トロが好き」
「手前にやる大トロはねぇ」
「金がないだけでしょ」
「林檎もやらねぇ」
「あぁん! シズちゃんのイケず!!」
番外・臨也とドタチン
「ドタチンドタチン、林檎、林檎食べたい林檎。もしくは大トロ」
「ほら、林檎」
「わーい。今俺の大トロ無視したね」
番外・臨也と新羅
「死神? うちにはもうセルティっていう天使がいるから君には用がないなぁ」
「わぁウザイなー。ノートに名前書いてやろうか」
番外・臨也と帝人様
「新世界の神、ですか…」
「………」
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2010.04.08
せっかく打ったので。
**************
金時は怒っていた。基本的に金時は怒りの感情と縁遠い日々を過ごしている。しかし今日ばかりは頭から湯気が出そうな程、ぐつぐつと胸をたぎらせて怒っていた。
怒りに任せて歌舞伎町の交番に飛び込む。今日の夜勤当番である黒髪のお巡りさんが何事かと顔を出し、金時を見て眉を寄せた。
「帰れ」
「なんでだよ!助けてよお巡りさん!!」
「何から助けろってんだ」
「この胸のなかにわだかまる黒いもじゃもじゃした何かから!俺このままじゃもじゃもじゃに中から食われる!絶対食われる!!」
「頭のもじゃもじゃで抵抗しとけ」
じゃあなと中に入ろうとしたお巡りを捕まえて金時は泣きついた。
「いいじゃんかケチぃぃい。構ってくんねーと今、今この場で、土方君のあることないこと恥ずかしいこと大声で叫んでやっからな!!」
「あああもううぜぇぇ!逮捕すんぞこの酔っ払い!」
「あぁ逮捕してみろぉぉお!逮捕して俺を事情聴取しろぉぉお!!っていうかしてくださいぃぃい!マジで俺の話を聞いて!!誰かに言いたくて仕方ねぇんだもん!!」
ギャーギャーと叫び喚く二人とは温度の違う声が、広くない交番に響く。
「話くらい聞いてやったらいいじゃねーですかぃ」
「じゃあてめぇが聞いてやれや」
「俺ァこれから仮眠タイムでさァ。でもお茶と煎餅用意してやりますから。あ、お代はあとで店に請求しときやすぜ、旦那」
そう言って沖田は二人分のお茶を入れ、固焼き煎餅の入った皿を出した。
**************
「………」
「なんだよ」
据わった目で見つめられて、土方はじりと金時から距離を取った。なにかよくないものを感じる。
その予感に近いことを、金時は低い声で言った。
「なんか、土方って先生に似てるな、黒髪でなんかツンツンしてっとことか」
「は?」
「………」
この際先生の代わりに、とか言い出すのかと思ったが、金時は溜め息をついて頭を振った。
「でも違うわ。先生マヨラーじゃねぇもん。背もちょっと低いし」
「は? 今てめぇマヨラー馬鹿にしたろ。今マヨラー馬鹿にしたろ。謝れ全世界のマヨラーに泣いて謝れェェエ!」
**************
みたいな。
**************
金時は怒っていた。基本的に金時は怒りの感情と縁遠い日々を過ごしている。しかし今日ばかりは頭から湯気が出そうな程、ぐつぐつと胸をたぎらせて怒っていた。
怒りに任せて歌舞伎町の交番に飛び込む。今日の夜勤当番である黒髪のお巡りさんが何事かと顔を出し、金時を見て眉を寄せた。
「帰れ」
「なんでだよ!助けてよお巡りさん!!」
「何から助けろってんだ」
「この胸のなかにわだかまる黒いもじゃもじゃした何かから!俺このままじゃもじゃもじゃに中から食われる!絶対食われる!!」
「頭のもじゃもじゃで抵抗しとけ」
じゃあなと中に入ろうとしたお巡りを捕まえて金時は泣きついた。
「いいじゃんかケチぃぃい。構ってくんねーと今、今この場で、土方君のあることないこと恥ずかしいこと大声で叫んでやっからな!!」
「あああもううぜぇぇ!逮捕すんぞこの酔っ払い!」
「あぁ逮捕してみろぉぉお!逮捕して俺を事情聴取しろぉぉお!!っていうかしてくださいぃぃい!マジで俺の話を聞いて!!誰かに言いたくて仕方ねぇんだもん!!」
ギャーギャーと叫び喚く二人とは温度の違う声が、広くない交番に響く。
「話くらい聞いてやったらいいじゃねーですかぃ」
「じゃあてめぇが聞いてやれや」
「俺ァこれから仮眠タイムでさァ。でもお茶と煎餅用意してやりますから。あ、お代はあとで店に請求しときやすぜ、旦那」
そう言って沖田は二人分のお茶を入れ、固焼き煎餅の入った皿を出した。
**************
「………」
「なんだよ」
据わった目で見つめられて、土方はじりと金時から距離を取った。なにかよくないものを感じる。
その予感に近いことを、金時は低い声で言った。
「なんか、土方って先生に似てるな、黒髪でなんかツンツンしてっとことか」
「は?」
「………」
この際先生の代わりに、とか言い出すのかと思ったが、金時は溜め息をついて頭を振った。
「でも違うわ。先生マヨラーじゃねぇもん。背もちょっと低いし」
「は? 今てめぇマヨラー馬鹿にしたろ。今マヨラー馬鹿にしたろ。謝れ全世界のマヨラーに泣いて謝れェェエ!」
**************
みたいな。
2010.03.30
自分以外誰もいない部屋に咳が響く。否定のしようもなく、風邪を引いた。
怠い、頭が痛い、喉も痛い、身体の節々も痛い。
思えば昨日の晩から既に体調不良の兆しは見えていた。
(最悪…)
独りごちて臨也は布団に包まった。今日は大人しく寝ていよう。こんな状態で何もすることはない。そう思っていたのに。
静かに、本当に静かに、部屋の扉が開いたのが分かった。そして忍び寄ってくる二つの気配。本人達は息を潜めているつもりでも、バレバレすぎて突っ込む気にもならない。
無視だ無視。
寝返りを打ち、気配に背を向けた。そう思っている間にそれらはベッドのすぐ脇に来ていた。
「イザ兄、大丈夫?」
「…病(風邪)…寝(安静にしてなきゃ)」
身を乗り出して覗き込んでくる。わざわざ寝ている臨也の身体を潰してだ。
二人分の重さに臨也は無視しきれず、閉じていた目を開けた。
「大丈夫じゃないよ。俺今思いっきり風邪引いてんの。だからほら、出てけ。移ったら困るだろ」
しっしと指先で追い払い、扉を指差しても妹達はベッドの臨也を見下ろしてその場から動かない。
その場でどうしようかと話し合い始め、部屋の外でやれ外でと臨也は苛立ちを募らせた。
そのうちマイルがぱっと顔を輝かせて手を打った。
「そうだ! イザ兄、今日朝から何も食べてないでしょ。私達がなにか作ってあげるね!」
「…飯(ご飯)…食(食べないと)…治(薬飲めない)」
「いい、寝てれば治るから。っていうか大人がいないときに火を使うなって言われてるだろ」
兄のためにと一生懸命考えた案を即切り捨てられ、双子はしゅんとうなだれた。その様子にも臨也の心が痛むことはない。何故ならそんなのはほんの一瞬のことで、すぐにマイルは顔を上げると、これ以上ないくらいの笑顔で言った。
「ならイザ兄が隣で見ててくれればいいんだよ!」
臨也はすっきりとしない頭で目の前の光景を眺めていた。
妹が自分のために一生懸命おじやを作ってくれている。
それがどうしてこんなにも嬉しくないかと言えば、寝ていたところをわざわざ叩き起こされからに他ならない。先程から絶え間無く寒気がしている。熱が上がるのだろう。生地の厚い半纏を着込んでいるのに震えが止まらない。
立っているのも辛くてシンクに寄り掛かっている状態だというのに、妹達はそれに気付かず次の手順はどうしたらいいのかと無垢な顔をして聞いてくる。
作れないのなら作ってあげるなんて言うな。そう思いながらも指示を出してやる。慣れない手つきで材料を切ったり煮たりする妹達に、見ててハラハラする。
見た目の悪いおじやが出来上がる頃にはもう体調は悪化の一途を辿っていた。
正直何も食べたくない。気持ち悪い。動きたくもないし、ただ寝ていたいとしか思えない。
しかし妹達が期待に輝かせた目を向けてくるので仕方なくスプーンを手に取った。一口、口に含む。
(…舌が麻痺してる。味わかんねぇや。あー喉痛い)
「イザ兄、美味しい?」
「………まぁまぁ」
「えー」
不満げに眉を寄せたマイルに対し、クルリはなにかに気づいたようでマイルの袖を引いた。
「なぁにクル姉」
「…宅(家に薬)…無(ない)…」
「えぇっ!ダメじゃんそれ!買ってこなきゃ」
4つの瞳が臨也に向けられる。それを受けて臨也は熱い溜め息をつくと青白い顔を自分の上着に向けた。そのポケットに入っている財布を取りに行かせ、中から紙幣を3枚程取り出してクルリに渡す。
「風邪薬と、冷えピタとポカリでも買ってきて。おやつは120円まで、各自1つずつだからな」
「…了(はい)…」
「まっかせてー!行こうクル姉!」
キャッキャとはしゃぎながら二人が家から出て行く。それを見送って臨也は考えていた。
(あれは俺が心配なんじゃなくて、看病ごっこして遊んでんだな)
絡まれたこちらとしては迷惑以外の何物でもない。再び溜め息をつくと持て余しているおじやに視線を注いだ。
ふと目を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい。リビングの机で伏せっていたようだ。おじやの器を見れば空になっているので、どうやら完食と同時に気を失ったようだ。
家のなかはしんと静まり返っていて、妹達はまだ帰っていないことを示していた。
時計は彼女達が出て行ってから2時間半が経とうとしていることを臨也に教えてくれた。
(なにしてんだあいつら…。ドラッグストアなんて歩いて10分もかかんないだろ。お使いも満足に出来ないのか…)
今日何度目か分からない溜め息がこぼれ落ちる。
身体が重たい。寝ていよう。
そう思うのに臨也の腕は上着を掴んでいた。
寝てもどうせ帰ってきた妹達に薬だと起こされるに決まっている。ならこちらから迎えに行って薬を受け取ってさっさと寝てしまった方がいい。
そう考えてのことだったのだが、家を出て数分で臨也は自分の行動を後悔した。
(気持ち悪い…)
眩暈が酷い。地面が揺れて、臨也は壁に手をついて立ち止まった。吐いたら楽になるだろうかとも考えたが、一般公道でそんな真似は出来ない。
(クソッ、どうしてこんなことに)
一刻も早く妹達を見つけて帰ろう。そう心に決めて臨也はなめくじのように壁を這って歩を進めた。
「あ、イザ兄だ。イザ兄ー」
「…疑(何してるの?)…」
遠く、臨也の胸中とは掛け離れた明るい声が響いて臨也は顔を上げた。
「うわイザ兄、酷い顔だよ。早く家帰って寝なきゃ!」
「…誰のせいだと…」
「え、何? なんか言った?」
「………」
もういいや。言い返すのも面倒だ。妹達に遠慮もなく手を引かれてバランスを崩しかけたところで襟を誰かに捕まれる。
嫌な予感しかしなかった。臨也はゆっくりと振り返り、その手の主を見上げた。
「…やぁ、シズちゃん…」
「おぅ」
感情の読めない瞳で見下ろしてくる静雄に臨也はただ引き攣った笑みを浮かべることしか出来なかった。何故此処に、などもはやどうでもいいことだ。
今日が自分の命日か。もう少し長生きしたかったと心の隅で思う。
「静雄さんがねぇ、薬一緒に選んでくれたんだよ。イザ兄、風邪薬としか言わないんだもん。いっぱい有りすぎてわかんなかったよ!」
「…へぇ…」
だから何。今おまえらの兄貴は絶体絶命、最大のピンチを迎えているんだと言ってやりたいけれど喋るのも億劫だった。俺、終わった。
そう思った瞬間に身体が浮いた。固く目をつむったが衝撃は来ない。
足はぶらぶらと浮いているのに上体がなにかに触れていて、何事かと目を開けば真っ先に痛んだ金髪が目に入った。
「…何してんの」
「自分がどうなってんのかわかんねぇようじゃ手前も終わってんな。こいつらじゃ手前連れて帰れねぇだろうが」
背負われているせいで臨也から静雄の表情を伺うことは出来ない。静雄が一歩踏み出すたびに臨也の足が頼りなく揺れた。
「医者にもかかってねーんだろ。後で新羅呼んでやる」
「………」
「静雄さん優しー!」
「…謝(ありがとう)…御(ございます)…」
周りを駆け回るマイルと、横を歩くクルリを横目に見ながら臨也は今日最後の溜め息を吐いた。
「…シズちゃん」
「あぁ?」
「あいつらも世話になったし、貸し二つでいいよ」
「くだらねぇこと言ってないで、さっさと治せ」
「おやおや、いいのかな。俺に恩売っとけばいいことあるのに」
「阿呆くせぇ」
「ハハッ」
もう駄目だ。瞼が重い。臨也は口よりも先に目を閉じた。
(次に目覚めたとき、まだシズちゃんが家にいて俺が驚愕するのはまた別の話)
怠い、頭が痛い、喉も痛い、身体の節々も痛い。
思えば昨日の晩から既に体調不良の兆しは見えていた。
(最悪…)
独りごちて臨也は布団に包まった。今日は大人しく寝ていよう。こんな状態で何もすることはない。そう思っていたのに。
静かに、本当に静かに、部屋の扉が開いたのが分かった。そして忍び寄ってくる二つの気配。本人達は息を潜めているつもりでも、バレバレすぎて突っ込む気にもならない。
無視だ無視。
寝返りを打ち、気配に背を向けた。そう思っている間にそれらはベッドのすぐ脇に来ていた。
「イザ兄、大丈夫?」
「…病(風邪)…寝(安静にしてなきゃ)」
身を乗り出して覗き込んでくる。わざわざ寝ている臨也の身体を潰してだ。
二人分の重さに臨也は無視しきれず、閉じていた目を開けた。
「大丈夫じゃないよ。俺今思いっきり風邪引いてんの。だからほら、出てけ。移ったら困るだろ」
しっしと指先で追い払い、扉を指差しても妹達はベッドの臨也を見下ろしてその場から動かない。
その場でどうしようかと話し合い始め、部屋の外でやれ外でと臨也は苛立ちを募らせた。
そのうちマイルがぱっと顔を輝かせて手を打った。
「そうだ! イザ兄、今日朝から何も食べてないでしょ。私達がなにか作ってあげるね!」
「…飯(ご飯)…食(食べないと)…治(薬飲めない)」
「いい、寝てれば治るから。っていうか大人がいないときに火を使うなって言われてるだろ」
兄のためにと一生懸命考えた案を即切り捨てられ、双子はしゅんとうなだれた。その様子にも臨也の心が痛むことはない。何故ならそんなのはほんの一瞬のことで、すぐにマイルは顔を上げると、これ以上ないくらいの笑顔で言った。
「ならイザ兄が隣で見ててくれればいいんだよ!」
臨也はすっきりとしない頭で目の前の光景を眺めていた。
妹が自分のために一生懸命おじやを作ってくれている。
それがどうしてこんなにも嬉しくないかと言えば、寝ていたところをわざわざ叩き起こされからに他ならない。先程から絶え間無く寒気がしている。熱が上がるのだろう。生地の厚い半纏を着込んでいるのに震えが止まらない。
立っているのも辛くてシンクに寄り掛かっている状態だというのに、妹達はそれに気付かず次の手順はどうしたらいいのかと無垢な顔をして聞いてくる。
作れないのなら作ってあげるなんて言うな。そう思いながらも指示を出してやる。慣れない手つきで材料を切ったり煮たりする妹達に、見ててハラハラする。
見た目の悪いおじやが出来上がる頃にはもう体調は悪化の一途を辿っていた。
正直何も食べたくない。気持ち悪い。動きたくもないし、ただ寝ていたいとしか思えない。
しかし妹達が期待に輝かせた目を向けてくるので仕方なくスプーンを手に取った。一口、口に含む。
(…舌が麻痺してる。味わかんねぇや。あー喉痛い)
「イザ兄、美味しい?」
「………まぁまぁ」
「えー」
不満げに眉を寄せたマイルに対し、クルリはなにかに気づいたようでマイルの袖を引いた。
「なぁにクル姉」
「…宅(家に薬)…無(ない)…」
「えぇっ!ダメじゃんそれ!買ってこなきゃ」
4つの瞳が臨也に向けられる。それを受けて臨也は熱い溜め息をつくと青白い顔を自分の上着に向けた。そのポケットに入っている財布を取りに行かせ、中から紙幣を3枚程取り出してクルリに渡す。
「風邪薬と、冷えピタとポカリでも買ってきて。おやつは120円まで、各自1つずつだからな」
「…了(はい)…」
「まっかせてー!行こうクル姉!」
キャッキャとはしゃぎながら二人が家から出て行く。それを見送って臨也は考えていた。
(あれは俺が心配なんじゃなくて、看病ごっこして遊んでんだな)
絡まれたこちらとしては迷惑以外の何物でもない。再び溜め息をつくと持て余しているおじやに視線を注いだ。
ふと目を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい。リビングの机で伏せっていたようだ。おじやの器を見れば空になっているので、どうやら完食と同時に気を失ったようだ。
家のなかはしんと静まり返っていて、妹達はまだ帰っていないことを示していた。
時計は彼女達が出て行ってから2時間半が経とうとしていることを臨也に教えてくれた。
(なにしてんだあいつら…。ドラッグストアなんて歩いて10分もかかんないだろ。お使いも満足に出来ないのか…)
今日何度目か分からない溜め息がこぼれ落ちる。
身体が重たい。寝ていよう。
そう思うのに臨也の腕は上着を掴んでいた。
寝てもどうせ帰ってきた妹達に薬だと起こされるに決まっている。ならこちらから迎えに行って薬を受け取ってさっさと寝てしまった方がいい。
そう考えてのことだったのだが、家を出て数分で臨也は自分の行動を後悔した。
(気持ち悪い…)
眩暈が酷い。地面が揺れて、臨也は壁に手をついて立ち止まった。吐いたら楽になるだろうかとも考えたが、一般公道でそんな真似は出来ない。
(クソッ、どうしてこんなことに)
一刻も早く妹達を見つけて帰ろう。そう心に決めて臨也はなめくじのように壁を這って歩を進めた。
「あ、イザ兄だ。イザ兄ー」
「…疑(何してるの?)…」
遠く、臨也の胸中とは掛け離れた明るい声が響いて臨也は顔を上げた。
「うわイザ兄、酷い顔だよ。早く家帰って寝なきゃ!」
「…誰のせいだと…」
「え、何? なんか言った?」
「………」
もういいや。言い返すのも面倒だ。妹達に遠慮もなく手を引かれてバランスを崩しかけたところで襟を誰かに捕まれる。
嫌な予感しかしなかった。臨也はゆっくりと振り返り、その手の主を見上げた。
「…やぁ、シズちゃん…」
「おぅ」
感情の読めない瞳で見下ろしてくる静雄に臨也はただ引き攣った笑みを浮かべることしか出来なかった。何故此処に、などもはやどうでもいいことだ。
今日が自分の命日か。もう少し長生きしたかったと心の隅で思う。
「静雄さんがねぇ、薬一緒に選んでくれたんだよ。イザ兄、風邪薬としか言わないんだもん。いっぱい有りすぎてわかんなかったよ!」
「…へぇ…」
だから何。今おまえらの兄貴は絶体絶命、最大のピンチを迎えているんだと言ってやりたいけれど喋るのも億劫だった。俺、終わった。
そう思った瞬間に身体が浮いた。固く目をつむったが衝撃は来ない。
足はぶらぶらと浮いているのに上体がなにかに触れていて、何事かと目を開けば真っ先に痛んだ金髪が目に入った。
「…何してんの」
「自分がどうなってんのかわかんねぇようじゃ手前も終わってんな。こいつらじゃ手前連れて帰れねぇだろうが」
背負われているせいで臨也から静雄の表情を伺うことは出来ない。静雄が一歩踏み出すたびに臨也の足が頼りなく揺れた。
「医者にもかかってねーんだろ。後で新羅呼んでやる」
「………」
「静雄さん優しー!」
「…謝(ありがとう)…御(ございます)…」
周りを駆け回るマイルと、横を歩くクルリを横目に見ながら臨也は今日最後の溜め息を吐いた。
「…シズちゃん」
「あぁ?」
「あいつらも世話になったし、貸し二つでいいよ」
「くだらねぇこと言ってないで、さっさと治せ」
「おやおや、いいのかな。俺に恩売っとけばいいことあるのに」
「阿呆くせぇ」
「ハハッ」
もう駄目だ。瞼が重い。臨也は口よりも先に目を閉じた。
(次に目覚めたとき、まだシズちゃんが家にいて俺が驚愕するのはまた別の話)
2010.03.29
朝の折原家はそれなりに忙しい。自分の仕度に加えて幼い妹達が髪を結ってくれとせがんでくるので、臨也は順番に二人の髪をとかして結んでやる。
それなりに手慣れてきた行為ではあるが、今日は特別だった。
何故なら左腕が使えない。骨折して宙づりにしているというのに妹達は構わず結んで結んでと言ってくるのだから堪ったものではない。腕がこうだから結べないと見せてやっても「イザ兄なら大丈夫だよ!出来るからやって!」と笑顔で櫛とゴムを押し付けられた。
みつあみがいいと言うのを無視しておさげにしてやる。
もう一人の髪をとかしている最中に呼び鈴が鳴った。
「誰だよこんな朝から…。マイル出てー。勧誘と集金なら親はいないで切っていいから」
「はいはーい!」
おさげ姿の自分を眺めていたマイルが跳びはねるようにしてインターホンに手を伸ばした。
それを視界の隅に入れながら臨也はクルリの髪を右手と、使えない左手で必死に纏めようとしていた。
「イザ兄ー」
「何」
「イザ兄いますかー、だって」
「誰」
「どちらさまですかー?」
やっとクルリの髪を綺麗に束ねて後は結ぶだけになったとき、マイルは言った。
「平和島静雄、だって!」
次の瞬間、クルリの髪はするりと臨也の手から離れていた。
平和島静雄という『化け物』を相手にするときは、命懸けの追いかけっこを楽しむ余裕を持てど、隙を見せてはならない。
そんなことは分かっていた。分かっていたが、飛び出した先に子供がいた。自分の、歳の離れた妹達よりも小さな女の子だった。ついそちらに意識が向いてしまった。
突然目の前に現れた臨也を不思議そうに見上げているこの子を巻き込まないようにしなければ。そう思ったのは本当に一瞬だったのに、彼はその隙を見逃すこともなく幼女に気付かないまま臨也の黒い学ランの襟を右手で捕まえ、左手で拳を作ると思いきり薄い身体に叩き込んだ。
左腕に当たる。臨也の身体は勢いのまま吹っ飛ばされるところであったが、静雄の手が襟を掴んだままだったのでそれは免れた。首に痛い程の力がかかる。
(痛ー…。あー、これは折れたね。絶対折れた。だって超痛いし動かないし)
半分宙づりにされたまま、臨也は冷静に自分の状態を分析した。
あの子はどうしただろう。見ればなにが起こったのか分かっていないようで大きな瞳を丸くして臨也を見つめていた。小さな口もぽかんと開いているから、本当にびっくりしたのだろう。
そんな彼女に笑いかけて無事である右手を振ってやる。ハッと我に返ったらしい少女は臨也を見て、それから臨也の後ろにいる静雄を見上げて、びくりと身体をすくませると泣きそうな顔をして駆けていった。
怪我がなさそうでなによりだ。もしかしたら今の光景はトラウマになってしまうかもしれないけれど、いや逆に衝撃的すぎて寝たら忘れるかもしれない。
目の前で人間が殴られるなんて、普通に生活していればなかなか見られない光景だろう。ましてやあの子はごくごく普通の少女だった。
少女が立ち去ったのを見送っていると、臨也の身体は解放された。
「いて」
前向きに倒れ込んだことで膝を打ち付けた。右手で身体を支え、地面に座り込んだまま真後ろにいる静雄に目をやった。
小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言ってやる。
「ぷー、シズちゃんビビられてやんの。まぁそうだよね。今のは違ったけど、平気で標識ぶん投げるような化け物、ちっちゃい子じゃなくたって怖いもんねぇ」
「臨也、手前…」
「何処から持ってきたんだか知らないけど、そこの標識ちゃんと元の場所に戻しときなよ。標識は必要だからそこにあるの。なきゃ困るだろ?」
「今腕…」
「じゃあ俺はもう行くよ。今日はもう追いかけてこないでね。いくら俺のこと見掛けるとつい追いかけたくなっちゃうほど大好きだからって、俺はシズちゃんの相手してあげられるほど暇じゃないんだ。ほら、宿題もあるし?」
立ち上がって右手で膝や尻の砂を払う。何処か呆然とした様子の静雄は何か言うことも、追って来ることもなかった。
なのに、どうしてこうなった。
自分の鞄と臨也の鞄を持って隣を歩く静雄を視界に入れぬようにして臨也は歩いていた。
『腕、折れてんだろ』
彼はそう言って臨也の鞄を奪い、先を歩いていった。
(確かにね、確かに俺はシズちゃんに殴られて腕折れたよ。折れたけど利き腕じゃないしっていうか今まで標識とか机とかいろいろ投げられてきたしぶつけられて肋骨とか折ってくれたりもしたけど全然気にしてくれなかったじゃん。いや別に気にしてほしいわけじゃないけど)
開口一番「鞄持ってやる」なんて恐怖以外の何物でもない。
ちらりと静雄を見れば、静雄は何を考えているのか全く読めない表情でむっすりと口を閉ざして前を向いていた。
「オイ」
「何」
「腕、いつ治んだよ」
「え…」
視線すら向けられず問い掛けられ、臨也は目を瞬かせた。
そうだ、そもそも何故こいつは自分が腕を折ったことを知っているのだろう。まさか新羅が言ったのだろうかと考えたが、それはないとすぐに切り捨てる。
家のなかでこそ腕を三角巾で吊ってきたが、静雄の前ではそんな姿を晒していない。ギプスだって目立たないものがいいと注文をつけた結果、添え木に包帯と応急処置みたいなことしかしてもらっていない。
(あぁ、直接殴られたから分かったのかな)
普段は物をぶつけられるばかりだ。自分が逃げ回るせいだが、素手で殴られることは少ない。
自分が殴り付けたものの、骨が折れる感触というのはどのように伝わるのだろう。恐らく一生自分には縁のない感覚だ。
罪悪感なんてものを感じているのだろうか。そんな、今更なものを。
(…変な奴…)
まじまじと見つめていると静雄の顔がどんどん険しいものになっていく。拳に力が込められていくのが分かった。
「オイ、答えろ」
返事をしなかった臨也に静雄が低く催促をする。
それを受けて、臨也はにっこりと笑った。
「一生治らないかもね」
そしたらずっと、こうして朝喧嘩もせず一緒に学校行けるかな。
(まぁ新羅に聞かれて全治1ヶ月ってバレましたけど)
それなりに手慣れてきた行為ではあるが、今日は特別だった。
何故なら左腕が使えない。骨折して宙づりにしているというのに妹達は構わず結んで結んでと言ってくるのだから堪ったものではない。腕がこうだから結べないと見せてやっても「イザ兄なら大丈夫だよ!出来るからやって!」と笑顔で櫛とゴムを押し付けられた。
みつあみがいいと言うのを無視しておさげにしてやる。
もう一人の髪をとかしている最中に呼び鈴が鳴った。
「誰だよこんな朝から…。マイル出てー。勧誘と集金なら親はいないで切っていいから」
「はいはーい!」
おさげ姿の自分を眺めていたマイルが跳びはねるようにしてインターホンに手を伸ばした。
それを視界の隅に入れながら臨也はクルリの髪を右手と、使えない左手で必死に纏めようとしていた。
「イザ兄ー」
「何」
「イザ兄いますかー、だって」
「誰」
「どちらさまですかー?」
やっとクルリの髪を綺麗に束ねて後は結ぶだけになったとき、マイルは言った。
「平和島静雄、だって!」
次の瞬間、クルリの髪はするりと臨也の手から離れていた。
平和島静雄という『化け物』を相手にするときは、命懸けの追いかけっこを楽しむ余裕を持てど、隙を見せてはならない。
そんなことは分かっていた。分かっていたが、飛び出した先に子供がいた。自分の、歳の離れた妹達よりも小さな女の子だった。ついそちらに意識が向いてしまった。
突然目の前に現れた臨也を不思議そうに見上げているこの子を巻き込まないようにしなければ。そう思ったのは本当に一瞬だったのに、彼はその隙を見逃すこともなく幼女に気付かないまま臨也の黒い学ランの襟を右手で捕まえ、左手で拳を作ると思いきり薄い身体に叩き込んだ。
左腕に当たる。臨也の身体は勢いのまま吹っ飛ばされるところであったが、静雄の手が襟を掴んだままだったのでそれは免れた。首に痛い程の力がかかる。
(痛ー…。あー、これは折れたね。絶対折れた。だって超痛いし動かないし)
半分宙づりにされたまま、臨也は冷静に自分の状態を分析した。
あの子はどうしただろう。見ればなにが起こったのか分かっていないようで大きな瞳を丸くして臨也を見つめていた。小さな口もぽかんと開いているから、本当にびっくりしたのだろう。
そんな彼女に笑いかけて無事である右手を振ってやる。ハッと我に返ったらしい少女は臨也を見て、それから臨也の後ろにいる静雄を見上げて、びくりと身体をすくませると泣きそうな顔をして駆けていった。
怪我がなさそうでなによりだ。もしかしたら今の光景はトラウマになってしまうかもしれないけれど、いや逆に衝撃的すぎて寝たら忘れるかもしれない。
目の前で人間が殴られるなんて、普通に生活していればなかなか見られない光景だろう。ましてやあの子はごくごく普通の少女だった。
少女が立ち去ったのを見送っていると、臨也の身体は解放された。
「いて」
前向きに倒れ込んだことで膝を打ち付けた。右手で身体を支え、地面に座り込んだまま真後ろにいる静雄に目をやった。
小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言ってやる。
「ぷー、シズちゃんビビられてやんの。まぁそうだよね。今のは違ったけど、平気で標識ぶん投げるような化け物、ちっちゃい子じゃなくたって怖いもんねぇ」
「臨也、手前…」
「何処から持ってきたんだか知らないけど、そこの標識ちゃんと元の場所に戻しときなよ。標識は必要だからそこにあるの。なきゃ困るだろ?」
「今腕…」
「じゃあ俺はもう行くよ。今日はもう追いかけてこないでね。いくら俺のこと見掛けるとつい追いかけたくなっちゃうほど大好きだからって、俺はシズちゃんの相手してあげられるほど暇じゃないんだ。ほら、宿題もあるし?」
立ち上がって右手で膝や尻の砂を払う。何処か呆然とした様子の静雄は何か言うことも、追って来ることもなかった。
なのに、どうしてこうなった。
自分の鞄と臨也の鞄を持って隣を歩く静雄を視界に入れぬようにして臨也は歩いていた。
『腕、折れてんだろ』
彼はそう言って臨也の鞄を奪い、先を歩いていった。
(確かにね、確かに俺はシズちゃんに殴られて腕折れたよ。折れたけど利き腕じゃないしっていうか今まで標識とか机とかいろいろ投げられてきたしぶつけられて肋骨とか折ってくれたりもしたけど全然気にしてくれなかったじゃん。いや別に気にしてほしいわけじゃないけど)
開口一番「鞄持ってやる」なんて恐怖以外の何物でもない。
ちらりと静雄を見れば、静雄は何を考えているのか全く読めない表情でむっすりと口を閉ざして前を向いていた。
「オイ」
「何」
「腕、いつ治んだよ」
「え…」
視線すら向けられず問い掛けられ、臨也は目を瞬かせた。
そうだ、そもそも何故こいつは自分が腕を折ったことを知っているのだろう。まさか新羅が言ったのだろうかと考えたが、それはないとすぐに切り捨てる。
家のなかでこそ腕を三角巾で吊ってきたが、静雄の前ではそんな姿を晒していない。ギプスだって目立たないものがいいと注文をつけた結果、添え木に包帯と応急処置みたいなことしかしてもらっていない。
(あぁ、直接殴られたから分かったのかな)
普段は物をぶつけられるばかりだ。自分が逃げ回るせいだが、素手で殴られることは少ない。
自分が殴り付けたものの、骨が折れる感触というのはどのように伝わるのだろう。恐らく一生自分には縁のない感覚だ。
罪悪感なんてものを感じているのだろうか。そんな、今更なものを。
(…変な奴…)
まじまじと見つめていると静雄の顔がどんどん険しいものになっていく。拳に力が込められていくのが分かった。
「オイ、答えろ」
返事をしなかった臨也に静雄が低く催促をする。
それを受けて、臨也はにっこりと笑った。
「一生治らないかもね」
そしたらずっと、こうして朝喧嘩もせず一緒に学校行けるかな。
(まぁ新羅に聞かれて全治1ヶ月ってバレましたけど)
2010.03.03
という訳でにょた銀高。
昔、松陽先生が開いてた個人塾で一緒だった二人。
成長し、高校はバラバラなところに行きました。
銀は地元の中堅からちょい下の公立高校。良家の高はお嬢様女子校。
周りに自分達の感情は内緒にしてる。
**************
『それは酷い裏切りでした』
「何処か行きたい。私達のこと、誰も知らないとこ。そんでもって、私達が愛し合うこと、赦されるとこ」
そうぽつりと呟いてみた。行けるわけない。本当は分かっていた。私達が赦される場所なんてこの世界の何処にもなくて、馬鹿なことを言ってるってことは自覚していた。けど。
ほんの少しの静寂のあとその言葉は返ってきた。
「じゃあ、行っちゃう?」
思いがけない返事に目を瞬かせて声の方を見れば、いつも通りやる気ない目が、私の方を真っ直ぐ見つめていた。
差し出された手を取って、行けるところまで行こうと電車に乗った。
何処へ行こう。行く先なんてなかった。けど、ふたりきり。電車に揺られる銀髪を見てたら、なにもかもがどうでもよくなった。
もう、違う学校のこいつが今何処で誰と何してるかなんて気にしなくていいし、“ただの友達”相手にくだらない嫉妬心を燃やさなくて済む。
だから、これでよかった。
短いスカートのせいで出てる膝上に放置されてた手に、自分の指先を絡める。
向けられた視線に視線を絡めて、いつもより少し甘えるように短い銀髪が跳ねる首に頭を寄せる。頭に頬を寄せられて、私は目を閉じた。
この列車が、私達の居場所まで連れていってくれればいいのに。
知らない場所まで来た。日も落ちて辺りも暗くて。どちらからともなくお互いの手を握り締めて身を寄せ合った。
不安なのは、きっと二人とも同じ。
街に明かりが灯る。ぽつんぽつんと暖かい光が増えていく。私はそれを、遠くのことのように見つめていた。
「とりあえず寝るとこ探そ。カプセルとか、ビジネスないかな。シングルでいいかな、狭いけど、っつーか取れるのかな二人で1つのシングル。あぁでもそもそも空いてるかな。ラブホは空いてるだろうけど案外高いからなぁ…」
耳のすぐそば、少し上の辺りから聞こえる声も右から左。私の意識は世界とは何処か遠くに浮かんでいた。
不意に家族の顔が思い浮かんだ。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、弟。
ヅラや坂本、他の友達、…松陽先生。
もう二度と会えないんだ。私達が置いてきたから。捨てたのは、私達。
世界はどんどん暗くなる。灯る明かりが私達の存在を否定して拒絶してるように思えて仕方なかった。
「とりあえず行…」
離れていく存在を引き止める。袖を引けば振り返って私を見つめた。
ほんの一瞬見開かれた目に私を映して、黙ったまま私に手を伸ばしてきた。
「なんで、泣いてんの?」
とめどなく溢れる涙が濡らす頬に添えられた指先は、優しかった。
仕方なさそうに笑って、私を抱きしめる温もりは心細さで凍えていた私に暖かかった。
ふわりと声が降ってきた。
「…帰ろっか」
「………っ」
しゃくりあげる私の背中を優しく撫でて、俯く私の手をひいてくれる彼女に私は消え入りそうな声で言った。
「…ごめ…っ、ね…っ、…ひっ、ぅー…」
私が、何処かに行きたいって言い出したのに。折角、願いを叶えてくれようとしたのに。
愛しい気持ちに嘘はないの。
けどなにひとつ捨てられない私はきっと、いや絶対、どうしようもなく最低だ。
これはこれ以上ない、彼女への裏切りだった。
「いいよ」
優しい声が鼓膜を揺らす。顔をあげれば彼女の背中が見えた。
「分かってたから。きっとこうなるって」
「………」
振り向かないまま、彼女は言った。
分かってた…? それはつまり。
私のこと、信じてなかったってこと。私が彼女のためになにひとつ捨てられやしない意気地無しだって、思ってたってこと。
それは事実だ。現にこうして私は泣いて、帰りたがっている。けど。
その言葉は、これ以上ない私への裏切りでしかなかった。
昔、松陽先生が開いてた個人塾で一緒だった二人。
成長し、高校はバラバラなところに行きました。
銀は地元の中堅からちょい下の公立高校。良家の高はお嬢様女子校。
周りに自分達の感情は内緒にしてる。
**************
『それは酷い裏切りでした』
「何処か行きたい。私達のこと、誰も知らないとこ。そんでもって、私達が愛し合うこと、赦されるとこ」
そうぽつりと呟いてみた。行けるわけない。本当は分かっていた。私達が赦される場所なんてこの世界の何処にもなくて、馬鹿なことを言ってるってことは自覚していた。けど。
ほんの少しの静寂のあとその言葉は返ってきた。
「じゃあ、行っちゃう?」
思いがけない返事に目を瞬かせて声の方を見れば、いつも通りやる気ない目が、私の方を真っ直ぐ見つめていた。
差し出された手を取って、行けるところまで行こうと電車に乗った。
何処へ行こう。行く先なんてなかった。けど、ふたりきり。電車に揺られる銀髪を見てたら、なにもかもがどうでもよくなった。
もう、違う学校のこいつが今何処で誰と何してるかなんて気にしなくていいし、“ただの友達”相手にくだらない嫉妬心を燃やさなくて済む。
だから、これでよかった。
短いスカートのせいで出てる膝上に放置されてた手に、自分の指先を絡める。
向けられた視線に視線を絡めて、いつもより少し甘えるように短い銀髪が跳ねる首に頭を寄せる。頭に頬を寄せられて、私は目を閉じた。
この列車が、私達の居場所まで連れていってくれればいいのに。
知らない場所まで来た。日も落ちて辺りも暗くて。どちらからともなくお互いの手を握り締めて身を寄せ合った。
不安なのは、きっと二人とも同じ。
街に明かりが灯る。ぽつんぽつんと暖かい光が増えていく。私はそれを、遠くのことのように見つめていた。
「とりあえず寝るとこ探そ。カプセルとか、ビジネスないかな。シングルでいいかな、狭いけど、っつーか取れるのかな二人で1つのシングル。あぁでもそもそも空いてるかな。ラブホは空いてるだろうけど案外高いからなぁ…」
耳のすぐそば、少し上の辺りから聞こえる声も右から左。私の意識は世界とは何処か遠くに浮かんでいた。
不意に家族の顔が思い浮かんだ。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、弟。
ヅラや坂本、他の友達、…松陽先生。
もう二度と会えないんだ。私達が置いてきたから。捨てたのは、私達。
世界はどんどん暗くなる。灯る明かりが私達の存在を否定して拒絶してるように思えて仕方なかった。
「とりあえず行…」
離れていく存在を引き止める。袖を引けば振り返って私を見つめた。
ほんの一瞬見開かれた目に私を映して、黙ったまま私に手を伸ばしてきた。
「なんで、泣いてんの?」
とめどなく溢れる涙が濡らす頬に添えられた指先は、優しかった。
仕方なさそうに笑って、私を抱きしめる温もりは心細さで凍えていた私に暖かかった。
ふわりと声が降ってきた。
「…帰ろっか」
「………っ」
しゃくりあげる私の背中を優しく撫でて、俯く私の手をひいてくれる彼女に私は消え入りそうな声で言った。
「…ごめ…っ、ね…っ、…ひっ、ぅー…」
私が、何処かに行きたいって言い出したのに。折角、願いを叶えてくれようとしたのに。
愛しい気持ちに嘘はないの。
けどなにひとつ捨てられない私はきっと、いや絶対、どうしようもなく最低だ。
これはこれ以上ない、彼女への裏切りだった。
「いいよ」
優しい声が鼓膜を揺らす。顔をあげれば彼女の背中が見えた。
「分かってたから。きっとこうなるって」
「………」
振り向かないまま、彼女は言った。
分かってた…? それはつまり。
私のこと、信じてなかったってこと。私が彼女のためになにひとつ捨てられやしない意気地無しだって、思ってたってこと。
それは事実だ。現にこうして私は泣いて、帰りたがっている。けど。
その言葉は、これ以上ない私への裏切りでしかなかった。
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