いろいろ置き場
なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。
2007.02.21
過去編。
銀八の愛で立ち直るより以前の高杉。
暗い…です、うん。
苦情等は受けつけませんので自己責任でお願いします。
多分あの時一度自分は死んだんだと、高杉は考える。
電話で先生が亡くなったと聞いたあの瞬間、自分の鼓動も止まった気がした。
松陽が死んで、通夜があって 告別式があって、松陽は骨になって骨壺に納められ
て墓に入れられた。
そのときのことを高杉はよく覚えていない。
目に映り脳が処理して行く何もかもが何処か違う世界のことのようで、現実感が
まるでなかった。
唯一覚えているのは、空に溶けていく白く細い煙だけ。
耳は何か音を捉えているのにちっとも頭に入ってこない。自分が今何をしている
のかがわからない。それが怖くて先生を探せば先生はもういないという音だけが
やけに鮮明に聞こえた。
「今日はうちに泊まろうと思うの。明日朝一の電車で会社に戻るわ。貴方はどう
するの」
「俺も今日はうちに泊まる。せったくとった休みだ。たまには休まなくちゃな」
聞き慣れない両親の声が閉ざされた扉の向こうから聞こえる。いつの間にか高杉
は自分の部屋のベッドで横になっていた。
「晋助、今日は外に食べにいこうと思うんだけど何が食べたい?…晋助?」
何か聞こえる気がする。何処から聞こえているのか、本当に聞こえているのかの
区別が付かない。
違う音が響く。
「そっとしておいてやれ。恩師が亡くなったんだ。よっぽどショックだったんだ
ろう」
その後も何かが聞こえた気がしたが、気のせいだったかもしれない。
気付けば部屋は真っ暗になって、窓から凍り付いた月明りが差し込んでいた。
先生に会いたい。先生は死んだ。先生に会いたい。けどもう会えない。先生に会
いたい。どうすれば会える。先生に会いたい。会いに行けば。
「………」
高杉はのろのろと身体を起こした。高杉の目に映り込んだ街灯の光は冷たく鋭くて、何
もかも切ってしまえそうに見えた。
桂は高杉のことが気にかかっていた。
先生が亡くなった日からろくに口もきけていない。昨日の通夜でも今日の告別式
でもまるで覇気が感じられなかった。
高杉がどれだけ先生に依存していたのか、側にいて高杉を見てきた桂にはよくわ
かっていた。
松陽は高杉にとって単なる先生ではない。惜しみ無く愛してくれる人だった。
知識や常識を教えてくれただけではなく、時に厳しく叱り付け、時に優しく抱き
締めてくれる存在。
そんな松陽を失った高杉の胸中は察するに余りある。
「………」
今日は高杉の親御さんが側にいるはず。だが高杉があまり接する機会のなかった
自分の両親に苦手意識を持っているのを桂は知っていた。
どうすべきが悩みに悩んだ末にやはりどうしても居ても立ってもいられず、藍色
が空を侵し始めた頃に桂は高杉の家に向かった。
普段なら形だけインターホンを鳴らし勝手に入っていくところだが今日はそうも
いかない。
高杉の母親は快く迎え入れてくれた。リビングにいた父親にも軽く会釈する。
正直、桂も高杉の両親は苦手だった。笑っていても何処か冷たいのだ。仮面を張
り付けているだけのような気がしてしまう。
「晋助はずっと部屋にこもりきりなの。晋助、小太郎君が来てくれたわよ」
母親が扉に向かって話しかけても返るのは静寂ばかりでなんの気配もしない。
「開けるわよ」
光源は月明りだけの部屋でも、一目でわかった。その光景の異質さが。
ベッドからシーツを伝い滴り落ちる、赤。
「高杉!!」
母親の悲鳴をそっちのけで桂はぐったりと倒れている高杉を抱き起こした。まだ
息はある。
ベッド上には似合わないカッターは刃が出しっぱなしになっていた。赤く染まっ
た左手首をハンカチで押さえて心臓よりも高く上げた。
すぐさま呼ばれた救急車で高杉は近くの総合病院に運ばれた。
処置が早かったので命に別条はなかったが、発見が遅れていたら命を落としてい
ただろうというのが医者の言葉だった。
高杉の両親の顔は青ざめていた。どうしてこんなことを。酷くショックを受けて
いるようだったが、命に別条はないと聞くと明日会社に戻るか戻らないかの話し
合いを始め、あまつさえ高杉の自殺未遂の原因は松陽の教育が悪かったのではな
いかと言い出したので、桂は怒鳴りたい衝動に駆られたがそれをぐっと堪えた。
どうして息子が死にかけたのに、死なないと分かったらすぐに息子より会社の心
配をする。どうして息子の側にいること以外のことを考えられる。おまえたちが
そんなだから高杉はこんなにも松陽に依存してしまったというのに。
高杉の意識が戻るのがあと少し遅かったら、そう怒鳴りちらしていたかもしれな
い。
桂は両親よりも先に病室に入りその傍らを陣取った。
「高杉」
「………」
高杉は大量の出血で血の気の失せた顔をしていて、目は相変わらずぼんやりとし
ていたが桂の声に反応してその目を桂に向けた。
「俺が誰だかわかってるか」
「…ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
高杉は無表情のままだが、ちゃんと意思疎通をはかれたことに桂は胸をなで下ろ
す。
後ろから両親が高杉に何言か話しかけていたが、高杉はそれには反応を示さず、
ただ虚空に目を向けていた。
高杉はしばらくして様子を見ることになった。高杉の両親と医者との話し合いが
行われたらしい。
当然担任の坂本にも連絡がいき、見舞いにも行ったそうだ。
後日桂が坂本にそのときのことを尋ねたところ、「やかましいから帰れ」と言わ
れたと笑っていた。坂本も高杉とコミュニケーションをはかれたそうだ。
唯一高杉と会話出来ていない高杉の両親は事件の次の日、病院に息子を残して仕
事に戻っていた。
退院の日も両親はおらず、桂と坂本が迎えに行った。
まだ強い鬱状態にある高杉を退院させることに異論はあったが、「もうあんなこ
としない」と高杉が言ったので退院することになり、これからは薬物治療と通院
することになった。
退院しても、高杉は日長誰もいない家で抜け殻のような日々を送っていた。
桂は家から高杉の分の食事を運んでやる。
「高杉、食事をとれ」
「…いらねぇ」
「とるんだ」
「………」
根気比べのような日々だった。
高杉の薬の管理は桂がしていた。大量に服用することを阻止するためだ。
「んなに心配しなくてももうしねぇつってんだろ」
と高杉は言ったが桂はそれらの言葉を黙殺した。
今思えば何をあんなに恐れていたのだろう。だが当時はそうすることが当然のよ
うに思っていた。
電話で先生が亡くなったと聞いたあの瞬間、自分の鼓動も止まった気がした。
松陽が死んで、通夜があって 告別式があって、松陽は骨になって骨壺に納められ
て墓に入れられた。
そのときのことを高杉はよく覚えていない。
目に映り脳が処理して行く何もかもが何処か違う世界のことのようで、現実感が
まるでなかった。
唯一覚えているのは、空に溶けていく白く細い煙だけ。
耳は何か音を捉えているのにちっとも頭に入ってこない。自分が今何をしている
のかがわからない。それが怖くて先生を探せば先生はもういないという音だけが
やけに鮮明に聞こえた。
「今日はうちに泊まろうと思うの。明日朝一の電車で会社に戻るわ。貴方はどう
するの」
「俺も今日はうちに泊まる。せったくとった休みだ。たまには休まなくちゃな」
聞き慣れない両親の声が閉ざされた扉の向こうから聞こえる。いつの間にか高杉
は自分の部屋のベッドで横になっていた。
「晋助、今日は外に食べにいこうと思うんだけど何が食べたい?…晋助?」
何か聞こえる気がする。何処から聞こえているのか、本当に聞こえているのかの
区別が付かない。
違う音が響く。
「そっとしておいてやれ。恩師が亡くなったんだ。よっぽどショックだったんだ
ろう」
その後も何かが聞こえた気がしたが、気のせいだったかもしれない。
気付けば部屋は真っ暗になって、窓から凍り付いた月明りが差し込んでいた。
先生に会いたい。先生は死んだ。先生に会いたい。けどもう会えない。先生に会
いたい。どうすれば会える。先生に会いたい。会いに行けば。
「………」
高杉はのろのろと身体を起こした。高杉の目に映り込んだ街灯の光は冷たく鋭くて、何
もかも切ってしまえそうに見えた。
桂は高杉のことが気にかかっていた。
先生が亡くなった日からろくに口もきけていない。昨日の通夜でも今日の告別式
でもまるで覇気が感じられなかった。
高杉がどれだけ先生に依存していたのか、側にいて高杉を見てきた桂にはよくわ
かっていた。
松陽は高杉にとって単なる先生ではない。惜しみ無く愛してくれる人だった。
知識や常識を教えてくれただけではなく、時に厳しく叱り付け、時に優しく抱き
締めてくれる存在。
そんな松陽を失った高杉の胸中は察するに余りある。
「………」
今日は高杉の親御さんが側にいるはず。だが高杉があまり接する機会のなかった
自分の両親に苦手意識を持っているのを桂は知っていた。
どうすべきが悩みに悩んだ末にやはりどうしても居ても立ってもいられず、藍色
が空を侵し始めた頃に桂は高杉の家に向かった。
普段なら形だけインターホンを鳴らし勝手に入っていくところだが今日はそうも
いかない。
高杉の母親は快く迎え入れてくれた。リビングにいた父親にも軽く会釈する。
正直、桂も高杉の両親は苦手だった。笑っていても何処か冷たいのだ。仮面を張
り付けているだけのような気がしてしまう。
「晋助はずっと部屋にこもりきりなの。晋助、小太郎君が来てくれたわよ」
母親が扉に向かって話しかけても返るのは静寂ばかりでなんの気配もしない。
「開けるわよ」
光源は月明りだけの部屋でも、一目でわかった。その光景の異質さが。
ベッドからシーツを伝い滴り落ちる、赤。
「高杉!!」
母親の悲鳴をそっちのけで桂はぐったりと倒れている高杉を抱き起こした。まだ
息はある。
ベッド上には似合わないカッターは刃が出しっぱなしになっていた。赤く染まっ
た左手首をハンカチで押さえて心臓よりも高く上げた。
すぐさま呼ばれた救急車で高杉は近くの総合病院に運ばれた。
処置が早かったので命に別条はなかったが、発見が遅れていたら命を落としてい
ただろうというのが医者の言葉だった。
高杉の両親の顔は青ざめていた。どうしてこんなことを。酷くショックを受けて
いるようだったが、命に別条はないと聞くと明日会社に戻るか戻らないかの話し
合いを始め、あまつさえ高杉の自殺未遂の原因は松陽の教育が悪かったのではな
いかと言い出したので、桂は怒鳴りたい衝動に駆られたがそれをぐっと堪えた。
どうして息子が死にかけたのに、死なないと分かったらすぐに息子より会社の心
配をする。どうして息子の側にいること以外のことを考えられる。おまえたちが
そんなだから高杉はこんなにも松陽に依存してしまったというのに。
高杉の意識が戻るのがあと少し遅かったら、そう怒鳴りちらしていたかもしれな
い。
桂は両親よりも先に病室に入りその傍らを陣取った。
「高杉」
「………」
高杉は大量の出血で血の気の失せた顔をしていて、目は相変わらずぼんやりとし
ていたが桂の声に反応してその目を桂に向けた。
「俺が誰だかわかってるか」
「…ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
高杉は無表情のままだが、ちゃんと意思疎通をはかれたことに桂は胸をなで下ろ
す。
後ろから両親が高杉に何言か話しかけていたが、高杉はそれには反応を示さず、
ただ虚空に目を向けていた。
高杉はしばらくして様子を見ることになった。高杉の両親と医者との話し合いが
行われたらしい。
当然担任の坂本にも連絡がいき、見舞いにも行ったそうだ。
後日桂が坂本にそのときのことを尋ねたところ、「やかましいから帰れ」と言わ
れたと笑っていた。坂本も高杉とコミュニケーションをはかれたそうだ。
唯一高杉と会話出来ていない高杉の両親は事件の次の日、病院に息子を残して仕
事に戻っていた。
退院の日も両親はおらず、桂と坂本が迎えに行った。
まだ強い鬱状態にある高杉を退院させることに異論はあったが、「もうあんなこ
としない」と高杉が言ったので退院することになり、これからは薬物治療と通院
することになった。
退院しても、高杉は日長誰もいない家で抜け殻のような日々を送っていた。
桂は家から高杉の分の食事を運んでやる。
「高杉、食事をとれ」
「…いらねぇ」
「とるんだ」
「………」
根気比べのような日々だった。
高杉の薬の管理は桂がしていた。大量に服用することを阻止するためだ。
「んなに心配しなくてももうしねぇつってんだろ」
と高杉は言ったが桂はそれらの言葉を黙殺した。
今思えば何をあんなに恐れていたのだろう。だが当時はそうすることが当然のよ
うに思っていた。
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