いろいろ置き場
なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。
2007.05.05
笑顔の山本に対して、ヒバリは無表情どころか僅かに眉間にしわを寄せ少し嫌そうな顔をしていた。
山本の手には、魚が丸々一匹存在している。
「魚屋で店主のおっちゃんと意気投合しちまってさ~、もらっちった」
漂う生魚臭、寿司屋の息子の山本はさして気にならないのかもしれないが、ヒバリは少し眉をよせていた。
「どうするの、それ」
ヒバリは堅い声で尋ねた。
「ん?」
山本は笑顔のまま言い放ちました。
「おろすぜ、俺が」
「どうやって」
訝しげなヒバリに、山本はにっこりと笑った。
「一応、教わってっから」
今夜は刺身にしような、などと笑っている山本にヒバリは終始眉をよせたままだった。
笑みを浮かべ鼻歌混じりで動かしていく包丁に迷いはない。綺麗にさばかれていく魚と、包丁を握る手の主をヒバリは交互に見つめていた。
ふと山本が視線を感じてヒバリを見た時、ヒバリはただじっとだいぶさばかれた魚を見つめていた。
無表情で、でも真っ直ぐ見つめているヒバリを思わず手を止めて見つめた山本の視線に気付いて、ヒバリは山本を見た。
「なに」
「ん?や…、…ど?俺の包丁さばき」
「お金はとれないね」
「ちぇっ」
××××××××××××××
なにやら話になりそうになかったので今日付けでアップのヒバリバースディ話に組み込んでみた。
本当は山本に魚さばかせたかったんだ…。マグロ。無理だよね。妥協してカツオ。
カツオっていったらカツオで人殴った山本耕史(@恋に落ちたら)しか出てこないわ。あ、彼も山本だ。
山本の手には、魚が丸々一匹存在している。
「魚屋で店主のおっちゃんと意気投合しちまってさ~、もらっちった」
漂う生魚臭、寿司屋の息子の山本はさして気にならないのかもしれないが、ヒバリは少し眉をよせていた。
「どうするの、それ」
ヒバリは堅い声で尋ねた。
「ん?」
山本は笑顔のまま言い放ちました。
「おろすぜ、俺が」
「どうやって」
訝しげなヒバリに、山本はにっこりと笑った。
「一応、教わってっから」
今夜は刺身にしような、などと笑っている山本にヒバリは終始眉をよせたままだった。
笑みを浮かべ鼻歌混じりで動かしていく包丁に迷いはない。綺麗にさばかれていく魚と、包丁を握る手の主をヒバリは交互に見つめていた。
ふと山本が視線を感じてヒバリを見た時、ヒバリはただじっとだいぶさばかれた魚を見つめていた。
無表情で、でも真っ直ぐ見つめているヒバリを思わず手を止めて見つめた山本の視線に気付いて、ヒバリは山本を見た。
「なに」
「ん?や…、…ど?俺の包丁さばき」
「お金はとれないね」
「ちぇっ」
××××××××××××××
なにやら話になりそうになかったので今日付けでアップのヒバリバースディ話に組み込んでみた。
本当は山本に魚さばかせたかったんだ…。マグロ。無理だよね。妥協してカツオ。
カツオっていったらカツオで人殴った山本耕史(@恋に落ちたら)しか出てこないわ。あ、彼も山本だ。
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2007.02.14
ある日のことです。
山本がぱんぱんに膨らんだ紙袋を手に帰ってきました。
「おかえり。…? 何それ」
「ただいま~。ん?これ?チョコレートとか」
事も無げに机に置かれた袋をヒバリはじっと見つめます。
「そんなに買ったの?」
「んーいや~。もらった」
「?」
「今日バレンタインデーだったのなー」
「バレンタイン…、」
ヒバリは頭を巡らせて、記憶の隅から本で読んだバレンタインと言う単語を引っ張り出します。
2月14日。ローマの司教バレンタインが殉教死した日。
「………それとチョコもらえるのとなんの関係もないと思うけど」
「日本でバレンタインデーってのは、女の子が好きな人にチョコをあげる日なんだ」
「じゃあ君のことを好きな女子がこんなにいるってこと?」
「まっさか~。義理だって、義、理」
「義理?」
「形だけあげるってやつ」
「ふぅん」
袋からひとつ取り出してヒバリはじっと観察します。
今迄スーパーでは見たこともないようなラッピングの施されたそれらも、所詮は99円で売ってるチョコもチョコはチョコだと思えばヒバリには無駄な包装だとしか思えません。
すぐに興味もなくしてまた袋に戻しました。
上着をハンガーにかけ、手洗いを済ませた山本が炬燵に入り込みます。
「どれか食う?」
「いらない」
「え、食ってくれよ。俺ヒバリも食うと思ってもらってきたんだぜ」
「いらないよチョコなんて」
「え~。こないだ随分お気に召してたじゃんか。パラソルチョコ」
「あれなら食べてもいいけど、こんなのいらないね」
「…パッケージ剥がすのめんどいから、とかじゃねーよな?」
「………」
「まっさかなぁ。其処までめんどくさがりじゃねーよな」
「………」
「………マジ?」
「………」
「………」
山本は手に取った箱のパッケージのリボンと包装紙を剥がします。出てきたのは市販の生チョコ16個入り。
「おー、生チョコだ。ヒバリ生チョコ食ったことねーよな」
「なに生チョコって」
「チョコはチョコだよ。まぁ食ってみ食ってみ」
「………」
ニコニコと笑顔で勧めてくる山本と生チョコをヒバリは訝しげに見比べます。まるで餌を与えられた野良猫のようです。
「君が先食べなよ」
「なんだ毒味か~?心配性だな~ヒバリは」
言いながら山本はひとつ摘んで口に運びます。もくもくと食べて「ん、うめーな」と一言。
ヒバリはそれの様子をじぃーっと見つめていましたがすっと視線を生チョコに移してまた見つめます。
山本はそんなヒバリの様子を横で眺めていました。
やがて意を決したのか、ヒバリは生チョコに手を伸ばしました。
*――――――――*
ここで挫折。また他のネタ探そう。
あ、吸血鬼ヒバリは超がつくほどのめんどくさがりです。あと甘いもの好きでもいいな(今思っただけ)
パラソルチョコは不○家製品だったハズ…違ったっけ?
そうなら今やもう手に入りませんな。ここ数年食べた覚えもないが。
山本がぱんぱんに膨らんだ紙袋を手に帰ってきました。
「おかえり。…? 何それ」
「ただいま~。ん?これ?チョコレートとか」
事も無げに机に置かれた袋をヒバリはじっと見つめます。
「そんなに買ったの?」
「んーいや~。もらった」
「?」
「今日バレンタインデーだったのなー」
「バレンタイン…、」
ヒバリは頭を巡らせて、記憶の隅から本で読んだバレンタインと言う単語を引っ張り出します。
2月14日。ローマの司教バレンタインが殉教死した日。
「………それとチョコもらえるのとなんの関係もないと思うけど」
「日本でバレンタインデーってのは、女の子が好きな人にチョコをあげる日なんだ」
「じゃあ君のことを好きな女子がこんなにいるってこと?」
「まっさか~。義理だって、義、理」
「義理?」
「形だけあげるってやつ」
「ふぅん」
袋からひとつ取り出してヒバリはじっと観察します。
今迄スーパーでは見たこともないようなラッピングの施されたそれらも、所詮は99円で売ってるチョコもチョコはチョコだと思えばヒバリには無駄な包装だとしか思えません。
すぐに興味もなくしてまた袋に戻しました。
上着をハンガーにかけ、手洗いを済ませた山本が炬燵に入り込みます。
「どれか食う?」
「いらない」
「え、食ってくれよ。俺ヒバリも食うと思ってもらってきたんだぜ」
「いらないよチョコなんて」
「え~。こないだ随分お気に召してたじゃんか。パラソルチョコ」
「あれなら食べてもいいけど、こんなのいらないね」
「…パッケージ剥がすのめんどいから、とかじゃねーよな?」
「………」
「まっさかなぁ。其処までめんどくさがりじゃねーよな」
「………」
「………マジ?」
「………」
「………」
山本は手に取った箱のパッケージのリボンと包装紙を剥がします。出てきたのは市販の生チョコ16個入り。
「おー、生チョコだ。ヒバリ生チョコ食ったことねーよな」
「なに生チョコって」
「チョコはチョコだよ。まぁ食ってみ食ってみ」
「………」
ニコニコと笑顔で勧めてくる山本と生チョコをヒバリは訝しげに見比べます。まるで餌を与えられた野良猫のようです。
「君が先食べなよ」
「なんだ毒味か~?心配性だな~ヒバリは」
言いながら山本はひとつ摘んで口に運びます。もくもくと食べて「ん、うめーな」と一言。
ヒバリはそれの様子をじぃーっと見つめていましたがすっと視線を生チョコに移してまた見つめます。
山本はそんなヒバリの様子を横で眺めていました。
やがて意を決したのか、ヒバリは生チョコに手を伸ばしました。
*――――――――*
ここで挫折。また他のネタ探そう。
あ、吸血鬼ヒバリは超がつくほどのめんどくさがりです。あと甘いもの好きでもいいな(今思っただけ)
パラソルチョコは不○家製品だったハズ…違ったっけ?
そうなら今やもう手に入りませんな。ここ数年食べた覚えもないが。
2007.02.10
「君は僕を苦しめることしかしないだね」
あいつは絞り出すような声でそう言った。
「早く消えてよ。僕の前にもう二度と現れないで」
そう俺に背を向けて言ったけど、俺は納得なんて出来ない。
だから尋ねたんだ。
「俺のしてきたことは、全部ヒバリを苦しめるだけだったのか?」
俺の問い掛けに、ヒバリは泣きそうな顔をしながら笑った。
「ほらまたそうやって僕を苦しめる」
あいつは絞り出すような声でそう言った。
「早く消えてよ。僕の前にもう二度と現れないで」
そう俺に背を向けて言ったけど、俺は納得なんて出来ない。
だから尋ねたんだ。
「俺のしてきたことは、全部ヒバリを苦しめるだけだったのか?」
俺の問い掛けに、ヒバリは泣きそうな顔をしながら笑った。
「ほらまたそうやって僕を苦しめる」
2007.02.03
運命の赤い糸ってやつが、目に見えるものならばよかったのに。
「んー…」
光を遮るように空に手を翳してみても、なんも付けてない武骨な俺の手は俺の手でしかない。
「―――………」
「此所でなにしてるの」
後ろからかけられた声に俺は振り向く。
その声に反応したのは俺だけではなかったようで、パタパタと黄色い鳥が何処からか飛んできて声の主――ヒバリの肩に止まった。
「よぉ」
「質問に答えなよ。此所でなにしてるの」
「べっつに。ただ空見てただけだぜ」
実際に見てたのは俺の手だけど。別にヒバリは真実だろうが嘘だろうがどうでもいいだろう。
実際、ヒバリはそれ以上は追及せず、変わりに素っ気なく言った。
「出てってくれる。今から此所は僕の場所だよ」
「おいおい、そりゃねーよ。俺のが先に居たんだぜ」
「君は僕に出てけっていうのかい?」
「いやいや。一緒に居ればいいだけだろ」
「僕はごめんだ。君は今すぐ此所から出ていけ」
おっと言葉が命令形になったぞ。
今日は天気がいいし風も余りないからヒバリは此所に昼寝しに来たんだろうと思う。
こないだたまたま居合わせた時そうだったから。
そのとき此所が最近のヒバリの昼寝スポットだと知り、それから俺はちょこちょこ此所に顔を出すようにしている。
「まぁまぁ。邪魔しねーから其処で寝てていいぞ~」
「君から許可を与えられる気なんてないよ」
「そりゃそうだ」
でも俺に出て行く気はない。それを示すようにヒバリに背を向けて空を仰いだ。
殴られっかな。そう思ったとき、ちょっと意外なことが起きた。
ヒバリが俺の左側のフェンスのところまでやってきた。手を伸ばしてもギリギリ届かない距離。
「………どした~?」
「別に。君が出てくのを待ってるだけだよ」
「今日は力ずくで追い出さねーのな」
「追い出されたいのなら追い出してあげるけど」
ザァと木々が揺れる音がして、俺らの間を風が通り過ぎる。
また平静を取り戻す木の緑を見つめながら俺はヒバリに問い掛けてみた。
「なぁヒバリ。赤い糸ってやつ信じっか」
「なにそれ」
「知らねぇ?あれだよ、運命の人と繋がってるってやつ」
「そんなことを聞いたんじゃない。なにその馬鹿みたいな質問ってことだよ」
「馬鹿みてぇって…。つまり信じてねーってことか」
なんだと笑いながら、会話が成り立ってることがなんだか嬉しい。そこで今日2回目の思いがけないことが起きた。
「君は信じてるの」
「ん?」
「君は、赤い糸、信じてるの」
まさかヒバリに問い返されるとは思っていなかった。
俺は数瞬応えることを忘れて瞬きを繰り返したが、はっと我に返って笑って答えた。
「信じてーなー。俺とヒバリを繋ぐ赤い糸」
「ないよそんなの」
「いーや、あるって。絶対ェある。俺見える」
「病院行けば。眼科か、それとも診療内科かな」
「ひでぇな~。マジなのに」
「だからだよ」
ヒバリの肩にとまってた鳥が何処かに羽ばたいていった。ヒバリはそれを目で追っている。そんなヒバリを俺は見つめてる。視線の一方通行。滅多にぶつかりあうことはない。
「いい加減出てったら」
「やだね。まだヒバリと話してぇし」
「僕に君と話すことなんてないよ」
「なんでもいいんだ。昨日何食べたとか、今日の授業はなんだったとか」
「そんなの君に話す気も無い」
「ガードがかてぇな~」
鳥の姿はもう見えない。ヒバリももうコンクリートを見つめてる。
「…さっきの話だけどよ」
「さっきってどれ」
お、会話する気はあるんだ。口には出さずそう思った。
「赤い糸」
「君の目か頭がおかしいって話」
「いやいや…。ワリィ、俺嘘吐いたわ」
「嘘?」
「赤い糸、見えてねぇよ」
「そう。よかったね正常で」
「見えたらいいな~って思っただけ」
「やっぱり病院に行くべきだよ。頭のね。僕が紹介してあげる」
「ヒバリの紹介か~。きっとVIP待遇なんだろうな~」
「それで入院でもして僕の前に現れなくなるんだったらそうしてあげるよ」
「入院はちょっとな~。って、ちげぇって。」
話がずれた。俺は軌道修正する。
「もしも、もしもの話だぜ」
俺はそう前置きをした。
「俺と、ヒバリが赤い糸で繋がってたら、ヒバリが何処に行っちまっても、糸手繰り寄せて俺はヒバリのところに行ける。ヒバリも俺のところに来れる。何処に行ってもだ」
そんなのに、憧れたんだ。
「…僕も一つ訂正するよ」
「ん?」
「君のこと、馬鹿みたいって思ってたけど、馬鹿だったんだね」
ついとヒバリの足が一歩前に出た。フワリと揺れる髪。鳥はまだ帰って来てない。
「まぁ馬鹿なのは認めるけど、マジだぜ」
「………」
屋上の扉に向かって歩き出したヒバリがその言葉に足を止めて振り返った。
「君ごときが僕を縛れると思ってるの」
「まさか。そんな大それたこと思っちゃねーよ」
「そう。ならいいけど」
そう言ってヒバリは扉の向こうに消えてしまった。
一人取り残されて少ししてから、鳥が戻ってきた。
フェンスに止まってヒバリがいないのを確認すると、また何処かに飛び立っていく。
俺はそれを見送った。
「賢いな~」
ちゃんと戻るところがわかってんだ。
「………」
鳥の姿はもう見えない。
俺はまた自分の手に目をやった。
赤い糸はやはり見えない。
俺は基本的に目に見えるものしか信じない質で、赤い糸なんてホントは信じちゃいなかった。でも人間は都合のいいもので、信じちゃいないくせに縋りたかったんだ。
ヒバリは何処までも自由にしているから。
なぁヒバリ、何処へでも飛び立っても構わないから。
疲れたら俺んとこに帰って来て。赤い糸を頼りに。俺はせめてあんたの止まり木になりたい。
「んー…」
光を遮るように空に手を翳してみても、なんも付けてない武骨な俺の手は俺の手でしかない。
「―――………」
「此所でなにしてるの」
後ろからかけられた声に俺は振り向く。
その声に反応したのは俺だけではなかったようで、パタパタと黄色い鳥が何処からか飛んできて声の主――ヒバリの肩に止まった。
「よぉ」
「質問に答えなよ。此所でなにしてるの」
「べっつに。ただ空見てただけだぜ」
実際に見てたのは俺の手だけど。別にヒバリは真実だろうが嘘だろうがどうでもいいだろう。
実際、ヒバリはそれ以上は追及せず、変わりに素っ気なく言った。
「出てってくれる。今から此所は僕の場所だよ」
「おいおい、そりゃねーよ。俺のが先に居たんだぜ」
「君は僕に出てけっていうのかい?」
「いやいや。一緒に居ればいいだけだろ」
「僕はごめんだ。君は今すぐ此所から出ていけ」
おっと言葉が命令形になったぞ。
今日は天気がいいし風も余りないからヒバリは此所に昼寝しに来たんだろうと思う。
こないだたまたま居合わせた時そうだったから。
そのとき此所が最近のヒバリの昼寝スポットだと知り、それから俺はちょこちょこ此所に顔を出すようにしている。
「まぁまぁ。邪魔しねーから其処で寝てていいぞ~」
「君から許可を与えられる気なんてないよ」
「そりゃそうだ」
でも俺に出て行く気はない。それを示すようにヒバリに背を向けて空を仰いだ。
殴られっかな。そう思ったとき、ちょっと意外なことが起きた。
ヒバリが俺の左側のフェンスのところまでやってきた。手を伸ばしてもギリギリ届かない距離。
「………どした~?」
「別に。君が出てくのを待ってるだけだよ」
「今日は力ずくで追い出さねーのな」
「追い出されたいのなら追い出してあげるけど」
ザァと木々が揺れる音がして、俺らの間を風が通り過ぎる。
また平静を取り戻す木の緑を見つめながら俺はヒバリに問い掛けてみた。
「なぁヒバリ。赤い糸ってやつ信じっか」
「なにそれ」
「知らねぇ?あれだよ、運命の人と繋がってるってやつ」
「そんなことを聞いたんじゃない。なにその馬鹿みたいな質問ってことだよ」
「馬鹿みてぇって…。つまり信じてねーってことか」
なんだと笑いながら、会話が成り立ってることがなんだか嬉しい。そこで今日2回目の思いがけないことが起きた。
「君は信じてるの」
「ん?」
「君は、赤い糸、信じてるの」
まさかヒバリに問い返されるとは思っていなかった。
俺は数瞬応えることを忘れて瞬きを繰り返したが、はっと我に返って笑って答えた。
「信じてーなー。俺とヒバリを繋ぐ赤い糸」
「ないよそんなの」
「いーや、あるって。絶対ェある。俺見える」
「病院行けば。眼科か、それとも診療内科かな」
「ひでぇな~。マジなのに」
「だからだよ」
ヒバリの肩にとまってた鳥が何処かに羽ばたいていった。ヒバリはそれを目で追っている。そんなヒバリを俺は見つめてる。視線の一方通行。滅多にぶつかりあうことはない。
「いい加減出てったら」
「やだね。まだヒバリと話してぇし」
「僕に君と話すことなんてないよ」
「なんでもいいんだ。昨日何食べたとか、今日の授業はなんだったとか」
「そんなの君に話す気も無い」
「ガードがかてぇな~」
鳥の姿はもう見えない。ヒバリももうコンクリートを見つめてる。
「…さっきの話だけどよ」
「さっきってどれ」
お、会話する気はあるんだ。口には出さずそう思った。
「赤い糸」
「君の目か頭がおかしいって話」
「いやいや…。ワリィ、俺嘘吐いたわ」
「嘘?」
「赤い糸、見えてねぇよ」
「そう。よかったね正常で」
「見えたらいいな~って思っただけ」
「やっぱり病院に行くべきだよ。頭のね。僕が紹介してあげる」
「ヒバリの紹介か~。きっとVIP待遇なんだろうな~」
「それで入院でもして僕の前に現れなくなるんだったらそうしてあげるよ」
「入院はちょっとな~。って、ちげぇって。」
話がずれた。俺は軌道修正する。
「もしも、もしもの話だぜ」
俺はそう前置きをした。
「俺と、ヒバリが赤い糸で繋がってたら、ヒバリが何処に行っちまっても、糸手繰り寄せて俺はヒバリのところに行ける。ヒバリも俺のところに来れる。何処に行ってもだ」
そんなのに、憧れたんだ。
「…僕も一つ訂正するよ」
「ん?」
「君のこと、馬鹿みたいって思ってたけど、馬鹿だったんだね」
ついとヒバリの足が一歩前に出た。フワリと揺れる髪。鳥はまだ帰って来てない。
「まぁ馬鹿なのは認めるけど、マジだぜ」
「………」
屋上の扉に向かって歩き出したヒバリがその言葉に足を止めて振り返った。
「君ごときが僕を縛れると思ってるの」
「まさか。そんな大それたこと思っちゃねーよ」
「そう。ならいいけど」
そう言ってヒバリは扉の向こうに消えてしまった。
一人取り残されて少ししてから、鳥が戻ってきた。
フェンスに止まってヒバリがいないのを確認すると、また何処かに飛び立っていく。
俺はそれを見送った。
「賢いな~」
ちゃんと戻るところがわかってんだ。
「………」
鳥の姿はもう見えない。
俺はまた自分の手に目をやった。
赤い糸はやはり見えない。
俺は基本的に目に見えるものしか信じない質で、赤い糸なんてホントは信じちゃいなかった。でも人間は都合のいいもので、信じちゃいないくせに縋りたかったんだ。
ヒバリは何処までも自由にしているから。
なぁヒバリ、何処へでも飛び立っても構わないから。
疲れたら俺んとこに帰って来て。赤い糸を頼りに。俺はせめてあんたの止まり木になりたい。
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