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いろいろ置き場

なんか暗かったりするのが多いよ。あとは気に食わないから表に置こうとは思わないんだけどせっかく書いたからとかいうもの置き場。

2025.06.26
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2007.01.21
 ...2005/04/11(Mon)  No.223  


部活中ふと見上げた屋上に見えた人影。
(お…、ありゃヒバリか…?)
青空にぽつんと映えるのは黒い髪黒い学ラン、見間違えるはずのないヒバリの後ろ姿。
フェンスに寄りかかって何をしているのか、グラウンドの山本からは分からない。
「山本ぉ!ぼんやりしてんじゃねぇぞー!!」
「あ、すんませーん」
主将の声にすぐさま見上げるのをやめ、練習に集中する。しかし頭からヒバリの姿が離れずに、イマイチ集中力に欠ける。
(なにしてんだろ…)
そんなことを思いながら、ノックの球に備えた。


休憩中、あまりにも気になって山本は屋上に向かった。
校舎内の廊下を歩き、階段を上る。
放課後の今は校舎内の喧騒はなく、聞こえるのは壁の向こうグラウンドの部活の声。
屋上までの最後の隔たり、重い扉を開ければ先程よりずっと近い青空が山本を迎えた。
開け放した扉から校舎内に空気が流れ込む。
山本はきょろきょろと屋上を見回し、頭を掻いた。
「あり…?もういなくなっちまったかな…」
山本もずっと屋上を見ていたわけではないし、山本が目を離している間にヒバリはもういなくなってしまった可能性は十分にある。
そのことも頭にいれながら、それでも山本は此処に来たのだが、実際いなくなられていると少々気落ちしてしまう。
「何探してるの?」
後ろから聞こえた声に、山本は一瞬動きを止めて、ゆっくりと振り返り、そこにいる人物を認め、笑みを浮かべた。
入り口の、上、ヒバリはそこに座っていた。
「よぉ」
山本を見下ろすその視線を受け、おざなりな挨拶をしてそこへ近寄った。
距離を詰めるに連れ、首を段々と上にあげる。逆光が眩しくて手をかざした。
「んなとこでなにしてんだ?」
「質問してるのはこっち」
尋ねれば容赦なくぴしゃりと言われて、山本は確かにと苦笑して素直に答えた。
「ヒバリ探してた」
グラウンドから見えたからとそちらを指差せばヒバリの視線もそちらに動いた。
そんなヒバリを見上げて、山本は再度尋ねた。
「んじゃ改めて。んなとこでなにしてんだ?」
山本の問いにヒバリは視線をグラウンドから山本に移した。
「別に。なにもしてないよ」
ただ外の空気が吸いたくなったから。
風が二人を撫でた。
「そか…」
「僕に何か用?」
言われて、山本ははたとヒバリを見た。
ヒバリは特別面白くも無さそうに山本を見下ろしていた。
山本は確かにヒバリに会いに来た。それはなんのために?
用があったわけじゃない。それは確かだ。
何故、休憩を潰してヒバリに会いに屋上に来たのだろう。
「んー…、別に、用があったわけじゃねぇけど」
「なのに僕を探してたの?」
変なのとヒバリは言ったが、変なのは山本だけじゃない。
「ヒバリこそ、なんでこんなとこにいんだよ?」
「…さっき言わなかった?」
外の空気が吸いたくなったと、ヒバリは言った。
それが、おかしいのだ。
「どうせ応接室にいたんだろ?そこの窓開けりゃいいじゃねぇか。なんでわざわざ屋上なんかに来なくてもよ」
応接室の窓からは、中庭が見えてグラウンドは見えない。
放課後の今なら中庭に人などほとんどどころかまったくいないだろう。それに元々中庭に人は少ない。
しかし屋上からはグラウンドが見えて、ヒバリの嫌う“群れてる草食動物”が視界に入りやすい。
外の空気を吸うだけなら、ヒバリの精神衛生上も応接室の方が良いはずだ。
「………」
ヒバリは黙り込んだ。
黙り込んだまま、山本を見つめている。山本も目をそらさない。
視線の拮抗を先に壊したのはヒバリだった。
ふいと顔をそらした。
「…確かに、此処は失敗だったね」
だから、草食動物が目に入らないよう此処に登ったんだ。とヒバリは言った。
ヒバリの座る場所からは、屋上の床、フェンス、他の校舎、校外の景色、空が見えるだけで地上は角度的に見えない。
なるほどね、と山本は納得したように見せたが、結局ヒバリは何故此処にいるのか答えていないことには気付いていた。
気付いていて、追求しなかった。
ヒバリがわざと答えなかったのは明白だったから。答えたくない。態度がそう言っている。
(分かりやす…)そんなことヒバリに言おうものなら殺されかねないけれど。
口にせずとも苦笑は思わず溢れていたようで、ヒバリが眉を寄せたのでわざと笑いかけてやった。
「君、休憩いつまでだと思ってるの」
「え」
「休憩。そろそろ終るんじゃない?」
言われて我に返れば、休憩は20分。此処に来るまでの時間と、此処に来てからの時間。そして、帰るまでに時間を計算する。
「やべっ。戻んねーと」
慌ててドアに駆け寄ろうとして、ふと山本はヒバリを見上げた
直線距離にして、ほんの1,2m。けれど決して手の届かないところに、ヒバリはいた。
まるで、屋上と空の恋愛。
誰より近くにいるのに、決して手が届かない。

 

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